4月21日の百物語
ネコ浄瑠璃
むかしむかし、あるところに、トラネコを飼っている一人暮らしのおばあさんがいました。
そのトラネコは人間の年でいえば、もう百才以上のお年寄りですが、今でもネズミを捕まえるほど元気で、とてもそんな年にはみえません。
ある日の事、村に人形浄瑠璃(にんぎょうじょうるり)の一座がやって来ました。
楽しみの少ない村の生活なので、村人たちはみんな人形浄瑠璃を見に行きました。
しかし、おばあさんは足腰が悪いので、人形浄瑠璃を見に行く事が出来ません。
「人形浄瑠璃か。・・・見たかったね」
おばあさんがそう言うと、いろりのそばで居眠りをしていたトラネコが、突然に人間の言葉で言ったのです。
「それじゃあ、おらが浄瑠璃を語ってやろうか?」
「えっ、今しゃべったのは、お前かい?」
「ああ、おらだ。ただしこの事は、誰にもしゃべらないでくれよ」
トラネコがしゃべったので、おばあさんはびっくりしましたが、
(まあ、家の賢いネコなら、しゃべっても不思議ではないね)
と、思い、トラネコに頼みました。
「わかったよ。誰にも言わないら、はやく語っておくれ」
するとトラネコは、本物の浄瑠璃語りの様に座布団に座って語り始めました。
その語りはとても素晴らしく、村に来ている本物よりも上手でした。
(やっぱり家のネコは、大したものだね)
おばあさんがすっかり聞きほれていると、浄瑠璃見物から帰って来た隣の家のおじいさんが、そのトラネコの語りを聞いてしまったのです。
次の日、用事で家の外に出て来たおばあさんに、隣のおじいさんがたずねました。
「昨日、あんたの家から浄瑠璃語りのいい声が聞こえたが、一体、誰が語っていたんだね?」
するとおばあさんが、
「実は、家のネコがね」
と、うっかり口を滑らせてしまったのです。
そして用事を済ませて家に帰ったおばあさんを、トラネコがキバをむいてにらみ付けました。
「おばあさん、あれほど約束したのに。
昨日の事を、よくも人にしゃべったね。
本当なら、殺してやるところだけど・・・」
トラネコはそう言うと自分から家を出て行き、二度と帰っては来ませんでした。
おしまい