4月25日の百物語
夜の葬式の化け物
新潟県の民話
むかしむかし、お父さんとお母さんと子どもの三人家族がいました。
お母さんのお腹には赤ちゃんがいるので、もうすぐ四人家族になります。
ある日の事、お腹の大きくなったお母さんは、急にナシが食べたくなって山へ取りに行きました。
そして袋いっぱいにナシを取ったお母さんが、ふと気がつくと、もう夕方になっていたのです。
「あら、もうこんな時間。今から帰っても、夜になってしまうわね」
お母さんはナシの入った袋を木に縛ると、朝が来るのを待つ事にしました。
さて、しばらくすると、遠くから葬式の行列が姿を現しました。
それを見たお母さんは、びっくりです。
なぜならこの地方では、夜に葬式を出すのは化け物と決まっていたからです。
「大変、化け物の葬式だわ。見つかるとどんな目にあわされるかわからないから、木の上に隠れていましょう」
お母さんはあわてて、木の上に登りました。
やがて葬式の行列は、お母さんが登っている木の下に来ると、手に持ったクワで死体を埋める穴を掘り始めました。
それを見たお母さんは、思わず、
「おっかない」
と、言ってしまったのです。
するとその声が聞こえたのか、穴を掘っていた化け物たちが一斉に木の上を見上げました。
「いま、上から人間の声が聞こえたぞ。この木の上に、いるのか?」
「人間なら、取って食ってしまおう」
「そうだ、そうだ。食ってしまおう」
化け物たちはそう言うと、長い手を木の上に伸ばしてきました。
お母さんは必死に木の上へ逃げて行きましたが、やがてこれ以上登れないところまで登った時に、長く伸びた化け物の腕に足を捕まれてしまったのです。
その手はヌルヌルとした、とても冷たい手です。
「きゃー! 助けてー!」
お母さんは悲鳴を上げて逃げようとしましたが、そのまま化け物の手に引きずり下ろされて、化け物たちに食べられてしまったのです。
さて、お母さんの帰りを待つ家では、お母さんがいつまでたっても帰って来ないので、お母さんを捜しに山へ行きました。
そこでお父さんと子どもは、食い残されたお母さんの着物をナシの木の下で見つけたのです。
それから数年後、青年となった子どもが鉄砲を持って、お父さんに言いました。
「お父さん。
わたしは今から、お母さんの仇討ちに行きます」
そして子どもは、お母さんの着物が落ちていた、あのナシの木へとやって来ました。
子どもが夜まで待っていると、どこからか、あの時の葬式行列がやって来ました。
「お母さんの仇だ!」
子どもは鉄砲を構えると、葬式行列の先頭にいる青白い光を放つ提灯(ちょうちん)を持った男に向けて鉄砲を放ちました。
バーン!
鉄砲の玉は見事に男の心臓へ命中したのですが、撃たれた男は平気な顔でケラケラと笑うと、そのまま子どもに近づいて来ました。
「ちくしょう!」
子どもは続けて鉄砲を打ちましたが、玉が何発当たっても男は平気な様子です。
男が、気味悪く笑いました。
「ケッケッケッ。そんな物が、通用するか。人間は、食べてやるぞ」
男は青白い光の提灯を持ったまま、子どもに襲いかかって来ました。
(駄目だ。わたしもお母さんと同じ様に、化け物に食べられてしまうのか!)
その時、子どもは小さい頃にお母さんから聞いた言葉を思い出しました。
『この世には、鉄砲で撃っても死なない化け物がいるそうだけど、それは化け物の命が別の所にあるからだよ』
(そうか、きっとあの化け物の命は、他の所にあるんだ!)
子どもは、男が持っている青白い光の提灯を怪しく思い、提灯めがけて鉄砲の玉を打ち込みました。
バーン!
すると男は、
「ウギャーー!」
と、悲鳴を上げて、その場に倒れたのです。
子どもがふと気がつくと、葬式行列は煙の様に消えてなくなり、青白い光の提灯を持った男の倒れた場所には、大きな大きな古狸が死んでいたという事です。
おしまい