きょうの百物語
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4月26日の百物語

ネコ岳のばけネコ

ネコ岳の化けネコ

 むかしむかし、旅の商人の五助(ごすけ)が、仕事で九州の阿蘇山(あそざん)の奥へと出かけました。
 五助は、いつの間にか道を間違えたらしく、岩だらけのところに出てしまいました。
「さあ、困ったぞ。本格的に、迷ってしまった」
 五助が、どうしようかと考えていると、
「ニャー」
と、どこからか、ネコの泣き声が聞こえてきました。
「はて?
 どうしてこんな山の中で、ネコの泣き声が?
 ・・・そういえば、確かこの辺りにネコ岳(だけ)という山があって、化けネコの親玉がいると聞いた事がある。
 ・・・捕まったら、大変だ」
 五助はその場を離れようと、方向もわからないまま先を急ぎました。
 すると山の奥に、家の明かりらしい物が見えました。
「ありがたい。あそこで泊めてもらうとしよう」
 明かりに近づくと、そこには立派なお屋敷がありました。
「すみません。旅の者ですが、今夜泊めてもらえないでしょうか?」
 五助が声をかけると、中から美しい女が現れて、
「どうぞ、おあがりなさい」
と、座敷へ通してくれました。
「ふうっ、野宿をせずにすんだ。それにしても、立派な屋敷だな」
 五助が荷物をおろして一息つくと、さっきの美しい女が言いました。
「お風呂が、わいております。
 お風呂は、廊下の突きあたりです。
 お風呂に入っている間に、ご飯の支度をしておきますね」
「ああ、風呂とはありがたい」
 そこで五助がお風呂に行こうとすると、廊下ですれ違った別の女が、ひどく驚いた顔で言いました。
「五助どん?」
 名前を言われて、五助もびっくりです。
「確かに五助ですが、どこかでお会いしましたか?」
 すると女は、五助の耳元に口を近づけて言いました。
「ここは、人間の来るところではありません。はやく逃げないと、ネコの姿にされてしまいます」
「はあ? あんたは、誰だね?」
「むかし、五助どんの家の近くにいた三毛ネコです。
 五助どんには、とても可愛がってもらいました。
 わたしは年を取ったので、ネコ岳の化けネコのかしらに仕えています」
 それを聞いて五助は、三毛ネコの事を思い出しました。
「そうか。お前さんは、あの三毛ネコか。急にいなくなったから、心配していたんだ」
「そんな事よりも、早くお逃げなさい」
 五助は三毛ネコの女に裏口を教えてもらい、命からがら逃げ出しました。
 するとやがて、
「まてぇー!」
と、お湯の入ったおけを手にした女たちが、五助を追いかけてきました。
 女たちは次々と、おけのお湯を五助にかけようとしました。
 バシャー!
 お湯が少し足にかかりましたが、五助は転げる様に山を下って、ようやく町へ逃げ帰りました。

 町の宿屋に入った五助が、お湯のかかった足を調べると、その部分だけネコの毛が生えていました。
「あの時、もしも風呂に入っていたら、おれは今頃ネコに・・・」
 それからというもの、五助は二度とネコ岳には近づきませんでした。

おしまい

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