5月13日の百物語
おりょう坂
茨城県の民話
むかしむかし、ある村に、おりょうという名の美しい娘がいました。
おりょうは小さい頃から、糸つむぎをするのが仕事でした。
ある日の事、町へ買い物に出たおりょうが、夜になっても帰って来ません。
両親や村人たちが何日も探しましたが、とうとう見つける事は出来ませんでした。
それから半年ほどが過ぎた雨の夜、山の坂道でおりょうの姿を見たという村人が現れました。
「あれは、どう見てもおりょうだ。
小さい頃から知っているから、間違いねえ。
だが、不思議な事に声をかけても何も言わないし、死人の様に顔色が悪かったな」
それを聞いた一人の若者が、
「よし、おれが確かめてやる」
と、鉄砲を持って出かけました。
次の朝、あの若者が帰って来ないというので、村はまた大騒ぎになりました。
村人たちがその場所へ行ってみると、若者やおりょうの姿はなく、若者の鉄砲だけが落ちていました。
「鉄砲には、撃ったあとがあるぞ」
「とすると、鉄砲でも倒せねえ化け物がいたに違いねえ」
その日の夜は、村一番の力持ちが出かけました。
そして次の夜は、村一番の猟師が出かけました。
しかし、みんな帰って来ません。
そこで村の若者たちが集まって、化け物退治の相談をしました。
「一人で行くのは危ねえから、みんなで一緒に行こう」
そこで数人の若者たちが、鉄砲を持って一緒に出かけました。
若者たちが山の坂道に着くと、おりょうらしい女があんどんの明かりの下で糸をつむいでいるではありませんか。
若者の一人が、恐る恐る声をかけました。
「もし、おりょうさんでは?」
「・・・・・・」
「おりょうさん?」
「・・・・・・」
何度声をかけても、返事がありません。
そこで女の顔を見ようと近づいた若者の一人が、
「これは、おりょうの化け物だ!」
と、叫ぶなり、
ズドーン!
と、鉄砲を撃ったのです。
すると女の姿もあんどんの明かりも消えて、辺りが真っ暗になりました。
「おい、やっつけたのか?」
「ああ、確かに玉が当たったからな」
ところが、しばらくすると、
「アッハッハッハ。アッハッハッハ」
と、高笑いとともにあの女が現れて、また何事もなかった様にあんどんの明かりの下で糸をつむいでいるのです。
「やはり、これは化け物だ!」
「今までの三人も、この化け物にやられてしまったんだ」
「しかし、どうすればいいんだ? 鉄砲も役に立たんでは」
「では、逃げるか?」
「そうだな、逃げ切れるとよいが」
そう言って若者たちが逃げ出そうとした時、一人の若者が、あんどんの明かりを見て言いました。
「待てよ。あのあんどんの明かりは、どうにも明る過ぎる。もしかすると、あれが化け物の正体では?」
そして若者は、あんどんの明かりを狙って、
ズドーン!
と、鉄砲を撃ちました。
すると、
「グェーーーーーッ!」
と、けたたましい悲鳴がして、女の姿もあんどんの明かりも消えてしまいました。
「今度こそ、やっつけたか?」
「たぶんな」
若者たちが恐る恐る女とあんどんがあった辺りを調べると、そこにはウシの様に大きなガマガエルがいて、片目を撃たれて死んでいるではありませんか。
化け物の正体は、この人食いガマガエルだったのです。
その後、村ではこの山の坂道を、『おりょう坂』と呼ぶ様になったそうです。
おしまい