5月23日の百物語
キジムナーのお灸
北海道の民話
むかしから古い木には、木の精が宿ると言われています。
その木の精は、北海道ではキジムナーと呼ばれていました。
木の精のキジムナーは赤ちゃんくらいの大きさの子どもで、なぜか魚の左目が大好物です。
そしてキジムナーと釣りに行くと魚はいつも大漁で、キジムナーと友だちになると大金持ちになれると言われていました。
さて、ある若者が、キジムナーと友達になりました。
若者はキジムナーと一緒に釣りに出かけ、舟が沈みそうなほどの魚を釣りました。
若者が喜ぶとキジムナーもうれしくて、若者が大事に育てているウリをとても大きく立派にしてやりました。
ある日、若者とキジムナーが散歩をしていると、大金持ちのお屋敷の庭に美しい娘がいるのを見かけました。
キジムナーは、ふと、いたずらをしたくなりました。
「ねえ、あの娘の魂を取ってみせようか」
キジムナーはそう言うと、お屋敷の庭に忍び込みました。
若者が木の下で待っていると、キジムナーは白く輝く玉を両手に包んで戻って来ました。
「ほら、これがあの娘の魂だよ」
「へぇー、何てきれいんだ。でも、魂を取られた娘はどうなるの?」
「大丈夫。魂を心臓の上に置けば、すぐに元に戻るよ」
「そうなんだ」
若者がびっくりしていると、キジムナーは満足そうに笑いました。
そして娘の魂を木の股に置いたまま、釣りに行こうと誘いました。
「うん、いいよ」
若者は走って行くキジムナーの後ろ姿を見ながら、娘の魂をそっとたもとにしまいました。
次の日、大金持ちの娘が急な病気で死にそうだとのうわさが、若者の耳に入りました。
そこで若者は娘の魂を持って、大金持ちのお屋敷へ行きました。
そして若者が娘の心臓の上に魂を乗せると、魂はゆっくりと娘の体の中へ入って行き、娘は元気を取り戻したのです。
「あなたは、娘の命の恩人です!」
大金持ち夫婦は喜んで、若者と娘を結婚させる事にしました。
さあ、これを知ったキジムナーはすっかり腹を立てて、若者に文句を言いに行きました。
「何が命の恩人だ! おいらが取った魂を、元に戻しただけじゃないか!」
すると若者はキジムナーに、『イ』の字の形に結んだススキの穂を見せたのです。
イの字の形に結んだススキの穂はキジムナーが大嫌いな物で、見ると怖くてたまらなくなるのです。
怖くなったキジムナーは、
「わあー」
と、言って逃げました。
それから若者は屋敷の周りに『イ』の字のススキの穂をぶら下げて、キジムナーがやって来られない様にしたのです。
「ちくしょう。仕返しに、お前の大切なウリにひどい事をしてやるぞ!」
腹を立てたキジムナーは、若者が大切に育てているウリにお灸をすえてまわりました。
それ以来、ウリに黒くて丸いキズが出来ると、『キジムナーのお灸』と言う様になったそうです。
おしまい