6月18日の百物語
人食いウサギ
むかしむかし、ある村に一人のお坊さんがやって来て言いました。
「お宮の社に、毎晩もちを供えなさい。そうしないと、悪い事が起こるであろう」
心配した村人たちは、さっそくもちをついてお宮の社に供えました。
ところがどうした事か、もちを持って行った人が帰って来ないのです。
「どこへ行ったのだ?」
みんなであちこちを探してみましたが、どこを探しても見つかりません。
「これはもしかすると、お坊さんの言った悪い事が起き始めているのかもしれんぞ。早くもちを供えないと」
そこでまたもちをついて、お宮へ持って行きました。
すると今度も、もちを持って行った人が帰って来ないのです。
「大変だ! やはり悪い事が起こっているんだ」
村はたちまち、大騒ぎになりました。
そして再びもちを備える事になりましたが、誰もが、もちを持って行くのを嫌がりました。
でも、もちを供えないと、どんな悪い事が起きるかわかりません。
村人たちは仕方なく、くじびきでもちを持って行く人間を決めました。
そして今度もまた、もちを持って行った人が帰って来ないのです。
次の日、二人の勇気ある若者が、村人たちに言いました。
「おれたちがもちを持って行って、誰も帰って来ない原因を突き止めてやる」
二人はさっそくもちをついて袋に入れると、お宮に出かけました。
二人は無事にお宮の社の前にもちの袋を置くと、素早く木の後ろに隠れました。
するとどこからか丸々と太ったウサギたちがたくさん出てきて、口々に呪文の様な物を唱えながら月を見上げて頭を下げました。
(なんて、でっかいウサギだ)
(しかし、でかいとはいえ、ウサギが人を?)
二人がじっと見ていると、一匹のウサギが人間の声で言いました。
「もちを持って来た奴は、どこへ行った? はやく見つけて、食べてしまえ!」
それを聞いた二人の若者は、思わず顔を見合わせました。
(やっぱり、あいつらが人を食べていたんだ)
二人は死に物狂いで駆け出し、何とか村へ戻りました。
そしてすぐに村人たちへ訳を話すと、恐ろしい人食いウサギをやっつける相談を始めました。
「どうやって、やっつけるんだ? 相手は、人食いウサギだぞ」
「決まっている。
ウサギの天敵は、犬だ。
だから、ばあさんのところの犬を連れて行けばいい。
あの犬なら、ウサギをやっつけてくれるだろう」
「なるほど、あの犬なら大丈夫だ」
そこで二人の若者は、犬を飼っているおばあさんのところへ行きました。
「ばあさん。
もちを持って行った村人が帰って来ないのは、人食いウサギに食べられた事がわかった。
だから、ばあさんの犬を貸してくれ。
あの犬は、いつも山でウサギを捕まえているから、きっと人食いウサギをやっつけてくれるだろう」
「そうか。そんなら、犬を連れて行くがよい」
おばあさんから犬を借りた二人の若者は、犬を連れて再びお宮へ行きました。
お宮に着くと、人食いウサギたちが、まだ袋のもちを食べていました。
そこで二人はウサギたちにそっと近づくと、勢いよく犬を放ちました。
「それ行け!」
「殺された村人のかたきを取ってくれ!」
ワンワンワンワン!
そのとたん、犬はウサギに襲いかかり、鋭いキバで次々とウサギを噛み殺しました。
するとその騒ぎを聞きつけたのか、社の中からお坊さんが姿を現しました。
「あっ、あのお坊さんは!」
「そうだ。あれは、もちを供える様に言ったお坊さんだ」
二人がびっくりしていると、犬がお坊さん目掛けて飛び掛りました。
「うぎゃーー!」
お坊さんは鋭い悲鳴をあげて、たちまち大ウサギの姿に変わりました。
大ウサギは犬の三倍ほどもありましたが、犬はウサギの一瞬の隙をついて、ウサギの喉を噛み切りました。
こうして犬のおかげで、恐ろしい人食いウサギたちは退治されたのです。
次の日、村人たちが社の中を調べると、今までに行方不明になった人たちも含めて、白骨となった人間の骨が山の様に出て来たそうです。
おしまい