7月20日の百物語
さとり
むかしむかし、木こりが山に小屋を立てて、毎日毎日オノをふるっていました。
ある日、木こりが木を切っている途中で日が暮れてしまいました。
「仕方ない。今夜はここで野宿をするか」
木こりが枯れ枝を拾い集めて、たき火をしていると、
ガサガサ、ガサガサ。
と、クマザサをかきわけて、ひとつ目の一本足が現れました。
一つ目の一本足はたき火のそばに来ると、黙って手をあぶりはじめます。
(何だ、この化け物は?)
木こりがそう思うと、ひとつ目の一本足がにやりと笑って言いました。
「今、お前が何を思ったか、当ててやろう。
『何だ、この化け物は?』
そう思っただろう」
ひとつ目の一本足は、見事に言い当てました。
(こいつは、おれの思う事がわかるのか? こいつはうわさに聞く、さとりの化け物かもしれん)
木こりがそう思うと、ひとつ目の一本足が言いました。
「お前、『こいつは、おれの思う事がわかるのか? こいつはうわさに聞く、さとりの化け物かもしれん』と、思ったろう」
またまた、言い当てました。
(こんな化け物に、構ってはおられん)
木こりが逃げ出そうとすると、ひとつ目の一本足がまた言いました。
「今、『こんな化け物に、構ってはおられん』と、思ったろう」
怖くなった木こりが、
(こんな化け物、はやく帰ればいいが)
と、思うと、ひとつ目の一本足はまた言いました。
「今、『こんな化け物、はやく帰ればいいが』と、思ったろう」
(何とかして、こいつを追い返す方法はないだろうか?)
木こりが考えていると、たき火の火の粉がパチーンとはじけ飛んで、ひとつ目一本足の大きな目玉に飛び込みました。
ひとつ目の一本足は、びっくりして飛び上がると、
「あちちちちっ! 人間て、思わん事もするもんだ。危なくて、こんなところにはおられん」
と、あわてて山へ逃げていきました。
おしまい