8月8日の百物語
弟切草
山形県の民話
むかしむかし、あるところに、とても仲の良い二人の兄弟がいました。
この兄弟は、顔も性格も食べ物の好みも、何から何までそっくりです。
ある日の事、二人は一人の女の人を同時に好きになってしまい、その女の人と結婚したいと思いました。
食べ物なら二人で分ける事も出来ますが、女の人ではそうはいきません。
その為に二人の仲は悪くなり、ある日とうとう、女の人をめぐって殺し合いを始めたのです。
殺し合いの結果、わずかに力が勝っていた兄が弟を刀で斬り殺したのですが、兄は血を流して倒れている弟を見て、自分がとんでもない間違いを犯した事に気がつきました。
「ああ、何て事を。おれは女にうつつを抜かして、大切な弟を殺してしまった」
兄は弟の為に立派なお墓を建てると、あれほど好きだった女の人と結婚する事もなく、毎日弟の墓参りをして暮らしていました。
そんなある日、いつもの様に弟の墓参りに来た兄は、墓のそばに見た事がない黄色い花が咲く草を見つけました。
その草の葉を日に透かしてみると、まるで血を垂らした様な黒い点が付いていました。
「黄色は、弟が好きだった色。
そしてこの黒い点は、弟の血を吸ったのだな。
弟はまだ、おれを恨んでいるのか」
この話を知った人々は、この草を弟切草(おとぎりそう)と名付けました。
さて、この悲しい名前の弟切草ですが、この弟切草は傷の妙薬で、この草を煎じて傷を洗えば、傷はたちどころに治ると言われています。
これは仏さまが悲しい出来事をあわれんで、この草に霊力を授けたのだと言われています。
おしまい