9月25日の百物語
七色の灯光
三重県の民話
むかしむかし、伊勢の国(いせのくに→三重県)の小さな村に、重兵衛(じゅうべえ)という釣り好きがいました。
重兵衛は毎日川へ行っては、アユばかりを釣っていました。
ある日の事、重兵衛がいつもの様に川へアユ釣りに出かけると、川をへだてた向こう岸に、昼間だというのに何かがまぶしいほどに光り輝いていました。
「あれは、何じゃ?」
つぶやきながら光を見つめていると、重兵衛の右にも左にも後ろにも、赤や青や黄や紫(むらさき)や緑や橙(だいだい)の光が現れて、やがて重兵衛の周りを取り囲んでしまいました。
「何だこれは!? 誰か、この光を消してくれー!」
怖くなった重兵衛が叫びましたが、川岸には他に誰もおらず、光は消えるどころかますます強く光り輝きました。
「何がどうなっているのだ? どうしておれが、こんな目に。・・・はっ!」
重兵衛はふと、ある事に思い当たり、おびえながらも土下座をして謝りました。
「すまなかった! 今までこの川でアユを取って、本当にすまなかった! 二度とアユを取らないから、許してくれ!」
すると重兵衛を取り巻いている光が、一つ一つすーっと消えていきました。
村の老人の話によると、重兵衛が毎日アユばかり取るので、怒ったアユたちが目玉から七色の光を発して、重兵衛さんをこらしめたという事です。
おしまい