10月1日の百物語
石になったオオカミ
岩手県の民話
むかしむかし、ある険しい山のふもとに、家が二十軒ばかりの小さな村がありました。
ある年の正月の夕方、どこから来たのか、吹雪の中を貧しい旅姿の母と娘がこの村を通りかかりました。
歩き疲れた母と娘は一晩泊めてもらおうと村の家々をたずねましたが、見知らぬ者を泊めてくれるところはありません。
それでもやっと、ある家のおばあさんが二人に教えてくれました。
「村はずれに、お寺がありますよ」
母と娘はやっとの思いでお寺へたどり着きましたが、ここでも二人を泊めてはくれません。
でもお寺の人が、 「本堂の縁の下でよければ、勝手に泊まっていけ」 と、言ってくれました。
その夜、母と娘は雪が吹き込む本堂の縁の下で、ブルブルと震えながら抱き合っていました。
夜ふけになると、裏山から六頭のオオカミたちがやって来ました。
そして夜が明けると本堂の縁の下にあみ笠を一つ残して、母と娘の姿は消えていました。
それから、何ヶ月もたった秋の事。
隣村で用事をすませたお寺の和尚さんが夜の山道を帰って来る途中、六頭のオオカミに襲われて殺されてしまいました。
そこで村人たちは熊平(くまへい)という、腕の良い猟師にオオカミ退治を頼みました。
熊平はオオカミが住むほら穴を探し出すと、近くの木に登ってオオカミが出て来るのを待ちました。
しばらくすると、六頭のオオカミがほら穴から出てきました。
「今だ!」
ドスーン!
ドスーン!
熊平は狙いをつけて次々と鉄砲を撃ちましたが、オオカミたちは素早く身をかわしてしまうので、一発も当たらないうちに玉がなくなってしまいました。
そして玉がなくなった事を知ったオオカミたちは、熊平がいる木の下へやって来ました。
その時です。
オオカミのほら穴から、一人の娘が出てきました。
それはお寺の縁の下から姿を消した、あの娘です。
母親はいませんが、娘は生きていて、オオカミと一緒に暮らしていたのです。
娘はオオカミたちに、大声で叫びました。
「その人には、帰りを待つ家族がいる。許してやりなさい!」
するとオオカミたちは木の下を離れて、ほら穴へ戻って行きました。
それから数ヵ月後の冬の夜、六頭のオオカミが村を襲いました。
するとまた娘が現れて、オオカミたちに言ったのです。
「この村には、お寺への道を教えてくれた優しい方がいるんだよ。暴れずに、帰りなさい」
その時、娘をオオカミと勘違いした村の猟師の放った矢が、娘の胸に突き刺さりました。
娘はその場に倒れて死んでしまい、オオカミたちはいつの間にかいなくなってしまいました。
しばらくして村人が、峠の道の脇で六頭のオオカミが石になっているのを見つけました。
それから毎年、娘が死んだ日の夜になると、石になったオオカミたちの悲しそうな遠吠えが峠の道から聞こえて来るという事です。
おしまい