きょうの百物語
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10月4日の百物語

お化けの出る屋敷

だまっとれ!
東京都の民話

 むかしむかし、江戸(えど→東京都)の四谷(よつや)というところに、喜右衛門(きえもん)という小鳥の店をしている男がいました。
 喜右衛門の店には珍しい小鳥がいるというので、わざわざ遠くから買いに来るお客もあって、店はなかなかに繁盛(はんじょう)していました。

 ある時、上品な身なりの侍が店にやってきました。
「うむ、色つやもよく、元気もよい。いくらだ?」
 この当時、侍たちの間では、うずらを飼って自慢しあう事がはやっていたのです。
「はい、三両二分ですが、三両にしておきましょう」
「よろしい、買い受けよう。
 だが、手元には二両しかない。
 ご苦労だが麻布(あざぶ)にあるわしの屋敷へうずらを届けがてら、残りの一両を取りに来てくれないか」
「はい、いいですとも。今夜にでもお届けしましょう」
 それを聞くと侍は喜んで、自分の屋敷の場所を教えて帰っていきました。

 その晩、喜右衛門はうずらのかごを持って、侍の屋敷に出かけました。
 思った通りの立派な屋敷で、声をかけると、すぐに昼間の侍が出てきました。
「おう、待っていたぞ」
 侍はうずらのかごを受け取ると、喜右衛門を広い部屋に連れて行って言いました。
「しばらくここで、待っていてくれ」
 喜右衛門が部屋を見回してみると、天井やたたみに雨もりの跡がありました。
 良く見ると柱も少し傾いており、ふすまのあちこちも破れたままです。
(なんだ、なんだ。
 立派な屋敷と思っていたけど、中はひどいもんだな。
 この様子では、あまり暮らしが楽じゃなさそうだ。
 残りの代金を、ちゃんと払ってくれるんだろうか?)
 心配しながら座っていると、いつの間にか十才くらいの男の子が目の前に立っていました。
「ああ、びっくりした! 坊や、部屋に入る時は、声ぐらいかけるもんだよ」
 お客の子どもをしかるわけにもいかないので、喜右衛門はやさしく言いました。
 ところが男の子は返事もしないで、床の間の方に行くと掛け軸をくるくると巻き上げて、ぱっと手を離しました。
(まったく、しょうがない子どもだ)
 喜右衛門が黙って見ていると、男の子は何度も何度も同じ事を繰り返します。
 喜右衛門はついにがまんが出来ず、男の子に言いました。
「いいかげんに、止めたらどうだい。そんないたずらをすると、掛け軸が痛んでしまうじゃないか」
 そのとたん男の子が手を止めて、クルリと振り返って言いました。
「うるさい! だまっとれ! お前の知った事か!」
 その男の子の顔には、目が一つしかありません。
「お、お前は、一つ目小僧!」
 びっくりした喜右衛門は、そう言って気を失ってしまいました。

 やがて部屋に戻ってきた侍は、倒れている喜右衛門をすぐに介抱して、カゴ屋をよんで喜右衛門を店まで送り届けさせました。
 店に戻った喜右衛門は、そのまま寝込んでしまいました。

 次の日、侍の屋敷から使いの男が、うずらの残りの代金を届けにきました。
 使いの男は、寝込んでいる喜右衛門に頭を下げて言いました。
「実はは、わたしどもの屋敷では一年に四、五回は、怪しい事が起きます。
 この前もご主人の部屋に頭をつるつるにした小坊主が現れて、お菓子を盗み食いしていました。
 それを見たおかみさんが、びっくりして声をあげようとしたら、いきなり『だまっとれ!』と、言って姿を消しました。
 古い屋敷なもので、どうやら化け物が住みついているらしいのです。
 かと言って、屋敷を建て替える金もなく、そのままがまんをしています。
 この事が世間にしれたら、ご主人の立場がありません。
 どうかお願いですから、昨日の事は誰にも言わないでほしいのです」
 それを聞いて喜右衛門は気の毒に思い、家の者以外には決してこの事を話しませんでした。
 その後、喜右衛門は二十日ほど寝込んでいましたが、すっかり元気になったという事です。

おしまい

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