10月16日の百物語
化け物寺の三味線(しゃみせん)
むかしむかし、ある村に、化け物が住むと言われる古い空き寺がありました。
その空き寺に泊まった者は、誰一人帰って来ないそうです。
ある日、村一番の力自慢が、空き寺に泊まりに行きました。
「アッハハハハ。化け物ぐらい、おれが退治してみせるわ」
空き寺に入った男は、持って来たお酒を飲みながら、化け物が現れるのを待ちました。
すると天井から、スルスルスルッと、何かがおりてきました。
見るとそれは、三味線(しゃみせん)です。
「なんだ、三味線ではないか。どれ、ひまつぶしにひいてみるか」
男が三味線に手をのばすと、
ペタリ。
と、三味線に手がくっついて離れません。
「ややっ、これはいかん」
男が三味線を足で蹴飛ばすと、足も三味線にくっついてしまいました。
「これは、どうした事だ? なんとかせねば!」
男があせってもがくと、髪の毛も顔も三味線にくっついてしまい、どうする事も出来ません。
「わあーっ、助けてくれー!」
男が泣き叫ぶと、三味線は男をくっつけたまま天井へ上がって行き、天井裏にひそんでいた化け物に男は食べられてしまいました。
男が化け物に食べられてから数日後、この村を通りかかった旅のお坊さんが化け物寺の事を耳にしました。
「化け物の正体を、わたしが暴いて見せましょう」
それを聞いた村人が、あわててお坊さんを止めました。
「とんでもねえ! 村一番の力自慢でも、化け物にやられてしまっただよ」
「いや、心配はいりません。すみませんが明日の朝に、様子を見に来てください」
その夜、お坊さんが化け物寺に泊まっていると、天井からスルスルスルッと、三味線がおりてきました。
「天井から三味線とは、いかにも怪しい」
お坊さんは三味線に手を出さず、じっと天井を見つめました。
「天井裏に、何かがいるようだ。・・・そこだな!」
お坊さんは、持っていたつえを天井に投げつけました。
するとつえは天井に突き刺さり、天井裏からものすごい悲鳴があがりました。
ギャーーーーーーッ!
その悲鳴は朝まで続きましたが、心配した村人が様子を見に来た頃には、物音一つしなくなりました。
「お坊さま、大丈夫でしたか。それで化け物は、どうなりました?」
お坊さんは、つえが突き刺さった天井を指差して言いました。
「化け物は、おそらく天井裏で死んでいるはず。一緒に見に行きましょう」
そこで村人たちとお坊さんが天井裏を調べると、天井裏にはたくさんの人の骨と一緒に、人よりも大きなクモがお坊さんのつえに体を貫かれて死んでいたという事です。
おしまい