10月26日の百物語
娘のお百夜参り
山形県の民話
むかしむかし、ある村のお寺は大変良く効く魔除け(まよけ)のお札をくれる事で知られており、遠くからも多くの人がおとずれました。
ある夏の夕暮れ、一人の美しい女の人が寺の門を叩きました。
「魔除けのお札をもらいに参りました。どうぞ、一枚わけてください」
ですがその日は和尚(おしょう)さんが町に出かけていたので、お寺の小僧は明日の晩にまた来る様に言って帰ってもらいました。
それからしばらくして、予定よりもはやく用事を済ませて町から帰ってきた和尚さんは、小僧から昨日の話を聞きました。
(そんなに美しい女が、この村にいたのかな?)
その夜の事、和尚さんの夢に本堂(ほんどう)の仏さまが現われて言いました。
「お札をもらいに来る娘は、和尚を食べに来た裏山に住む化け物じゃ。百夜通わせて弱らせてから、お札をくれてやるとよい」
次の日のタ方、昨日の美しい女がやって来ました。
「和尚さまのお札を、分けて下さい」
和尚さんが門のすき間からのぞいて見ると、今までみた事もないほど美しい娘でした。
和尚さんはうっかり門を開けそうになりましたが、仏さまの言葉を思い出して言いました。
「すまぬが、わしの札は貴重(きちょう)な物。百夜の願をかけねば、やるわけにはいかんぞ」
すると娘は悲しそうな顔をして、帰って行きました。
美しい娘はそれから毎日タ方になると、山門まで願をかけに訪ねて来ました。
夏が過ぎて秋も終わる頃、美しい娘は和尚さんがかわいそうになるほど弱ってきました。
いよいよ、百日目になりました。
和尚さんと小僧は魔除けのお札を山門のあちこちにはると、本堂でお経を読み始めました。
山門にやって来た娘は魔除けのお札を見るとブルブルと震え出し、たちまちまっ黒な化け物の姿になって山門を打ち破るとお寺の中に入ってきたのです。
その時、天から一条の光が境内(けいだい)の池に差し込むと、水しぶきをあげて竜が飛び出して、化け物と、とっくみ合いの戦いを始めたのです。
大変力の強い化け物でしたが、お百夜参りで弱っていたので、最後には竜に倒されて池に引き込まれてしまいました。
その事があってから、この寺を龍徳寺(りゅうとくじ)と呼ぶ様になったのです。
おしまい