11月2日の百物語
しかばねをねらう娘
むかしむかし、雨の降る晩の事、ある山のふもとにあるお寺の戸を叩く者がありました。
「誰じゃ、今頃」
和尚さんがしぶしぶ起き出して行くと、そこには長い黒髪の美しい娘が立っていました。
「はて、どんなご用かな?」
娘は頭を下げると、和尚さんに言いました。
「はい。この間、こちらでとむらっていただいた人のしかばね(→死体)を引き取らせてください。
家で、とむらいをやり直したいのです」
娘は静かな口ぶりで言いましたが、その目は赤くらんらんと光り輝いており、娘の体からは動物のにおいがします。
和尚さんはすぐに、この娘は化け物に違いないと思いました。
そこで和尚さんは娘をにらみつけると、怖い顔で言いました。
「いいや、断る。痛い目にあいたくなければ、すぐに立ち去るがよい」
すると娘も和尚さんをにらみつけて、するどい牙が隠れた口を開いて言いました。
「覚えていろ! 近いうちに、必ず仕返しをしてやる!」
そして娘は、その場から立ち去りました。
それからしばらくたったある日、村でお葬式がありました。
和尚さんがお経をあげに行くと、その家のかげに長い黒髪の美しい娘がいて、こちらをじっと見つめています。
(顔は多少違うが、あやつはこの間の化け物だな。今日の葬式のしかばねを、お墓に運ぶ途中で奪うつもりか)
和尚さんはお葬式が終わると、お墓へ行く人たちに棺桶(かんおけ)をしっかりとかつがせました。
お葬式の人たちがお墓へ向かうと、雲一つない青空に黒雲が現れて、雷がとどろくと大粒の雨が降ってきました。
黒雲はだんだん空から降りてくると、お葬式の一行を待ち伏せするかの様にお墓へ続く道で止まりました。
(あの黒雲に、化け物がいるに違いない。ちと、こらしめてやるか)
和尚さんはお葬式の一行の先頭に立つと、気合いとともに、つえを振り上げました。
「かぁぁーーっ!」
すると黒雲の中から、何かがどさっと落ちてきました。
「なんだ、なんだ」
人々が駆け寄ってみると、それは年を取った大オオカミで死体だったそうです。
おしまい