11月13日の百物語
泣きべそしゃれこうべ
むかしむかし、一人の百姓(ひゃくしょう)が隣村から家へ帰る途中、日が暮れてきたので近道をしようと墓場の中を通りました。
そして何か丸い物をふんづけたと思ったその時、いきなり足元から怒鳴られました。
「やいやい! よくもおれさまの顔をふみつけおったな!」
驚いた百姓が足元を見ると、百姓がふんづけた丸い物は人間のしゃれこうべ(→ガイコツの頭)で、そのしゃれこうべがあごをカクカク動かしながら怒鳴っていたのです。
しゃれこうべが、また怒鳴りました。
「この百姓め。ふみつけた仕返しに、孫の代までたたってやるぞ!」
ところが百姓も気の強い男で、しゃれこうべに怒鳴り返しました。
「やかましい! こんなところで道を通せんぼうするのが悪いんだ! 引っ込め!」
「引っ込めと言われても、おれ一人ではどうにもならんわ!
イヌの奴が、おれをこんなところへ運んで来たからで、なにも好きこのんでここにいるわけじゃあない!」
「それなら、お前をここに運んで来たイヌをたたってやるのがすじだろう。どうしてイヌをたたってやらないんだ」
するとしゃれこうべは、ため息をついて答えました。
「たたれるものなら、たたっておるわ。
あいつらはしょっちゅう墓場をうろついて、おれたちにひどい事をする。
ところがイヌでは、たたるにもたたられん。
なにしろあの連中は運勢(うんせい)が強すぎて、おれ程度では歯が立たないんだ」
「何だと!
それじゃあ、この百姓さまは、イヌよりも運勢が弱いというのか!?
やい、しゃれこうべ!
きさまは亡者(もうじゃ→成仏出来ない死人)でも、元は人間だろう!
百姓さまがイヌよりも運勢が弱いとは、どういうりょうけんだ!」
「そ、そう言われても・・・」
百姓に怒鳴られて、しゃれこうべは泣き声になってきました。
「どうか、このあわれな亡者をせめないでください。
さっき、『孫の代までたたってやるぞ』と言ったのは、うそです。
実はあなたさまはとても運勢の強いお方で、とてもとても、たたる事など出来ません。
謝りますから、どうかこのしゃれこうべをあわれと思って、土の中に埋めてください。
恩にきますから」
「恩にきる?
アハハハハハッ。
おれはお前の様な泣きべそしゃれこうべに、恩をきせようとは思わんわい」
百姓はしゃれこうべを蹴り飛ばすと、さっさと家へ帰って行きました。
いじわるをせずに、埋めてあげればいいのにね。
おしまい