11月17日の百物語
踊るしかばね
むかしむかし、あるところに、とても信心深い庄屋(しょうや)がいました。
庄屋さんは毎日念仏を唱える人ですが、庄屋さんの奥さんは神も仏(ほとけ)も信じません。
それどころか屋敷で働く人たちをビシバシ働かせて、自分一人でぜいたくな暮らしをしていたのです。
庄屋さんはいつも奥さんに、
「人には親切にしてあげなさい。そして神さまや仏さまを信じなさい」
と、言うのですが、しかし奥さんは、
「へん、死んでからの事なんて、どうでもいいよ。
今がよければ、後は野となれ、山となれだよ」
と、庄屋さんの言葉を鼻で笑うのです。
ところがその奥さんが、ある日ポックリと死んでしまったのです。
「どうしようもない女房だったが明日には大勢のお坊さまを呼んで、極楽に行ける様に立派な葬式を出してやろう」
庄屋さんは奥さんのしかばね(→死人の体)の前に線香をたいて、手を合わせました。
その晩遅く、どこからか笛やたいこの音が聞こえてきました。
その音はだんだんと、庄屋さんの屋敷へと近づいてきます。
すると不思議な事に奥さんのしかばねが起き上がり、笛やたいこの音に合わせて踊り始めたのです。
庄屋さんも、お通夜に集まっていた人たちも、びっくりです。
笛やたいこは、しばらく庄屋さんの屋敷の屋根辺りで鳴り響いていましたが、やがてどこかへ遠ざかって行きました。
すると奥さんのしかばねも踊りながら、遠ざかる音を追いかけるようにフラフラと屋敷を出て行ったのです。
「これは大変だ!」
我に返った庄屋さんは庭の木の枝をへしおると、それを手に奥さんのしかばねを追いかけました。
奥さんの行く先には古いお墓があって、お墓の周りで鬼火がユラユラとゆらめいていました。
おかみさんのしかばねは、笛やたいこの音色に合わせて踊り続けています。
庄屋さんは手にしていた木の枝で、奥さんのしかばねをビシバシとぶちました。
「頼む! こいつを地獄へ連れて行かないでくれ! 出来の悪い女だったが、それでも地獄行きは可愛そうだ!」
すると笛やたいこの音色がピタリとやんで、奥さんのしかばねはばたりと倒れて動かなくなりました。
庄屋さんは後からやって来た人たちと一緒に奥さんのしかばねを屋敷に連れて帰ると、心配そうにしている人たちに頭を下げて言いました。
「お見苦しいところを見せました。
こいつは生きていた時の行いが悪かった為に、魔物に連れて行かれるところでした」
次の日、庄屋さんは無事に奥さんのお葬式をだしたという事です。
おしまい