12月13日の百物語
散歩する人魂(ひとだま)
むかしむかし、お城勤めの侍が仕事を終えて夜遅くに屋敷へ帰る途中、ふいに背筋がゾクゾクと震えました。
(むむっ、何やら怪しい気配が)
侍が思わず身構えると、道向こうの暗闇にフワフワと人魂(ひとだま)が飛んでいたのです。
(怪しい物の正体は、これか。人に悪さをするのであれば、退治してくれよう)
侍は刀を抜くと、その人魂を追いかけて行きました。
人魂はまるで、人が散歩している様に道にそって飛んでいます。
その動き方や早さからすると、まるで老人が歩いているかの様です。
(人魂を見るのは初めてだが、たいして恐ろしくはないな)
侍がそう思っていると人魂は後をつける侍に気づいたのか、急に走る様に逃げ出しました。
(むっ、逃がさぬ!)
侍が追いかけて行くと、人魂は松の木のあるへいをフワッと飛び越えて、家の中に入ってしまいました。
侍がへいの中をのぞくと、寝ぼけ顔のおじいさんが体を起こして、おばあさんに言いました。
「ばあさんや。
わしは今、変な夢を見ていたぞ。
町を散歩していたら刀を抜いた侍に追いかけられたので、あわてて家に逃げ帰った夢だ」
それを聞いて、侍はびっくりしました。
(刀を抜いて追いかける侍とは、わしの事か?
そう言えば、年を取ると夢を見ている間に、魂が抜け出すと聞いた事がある。
わしも年を取ったら、気をつけねば)
侍は刀をしまうと、自分の屋敷に帰っていきました。
おしまい