12月19日の百物語
クモ女
むかしむかし、旅の小間物売り(こまものうり→化粧品などを売る人)が今夜の寝場所を探していると、小さな空き家がありました。
「ちょうどよい。今夜は、あそこをお借りしよう」
小間物売りが空き家に入ると、中はクモの巣だらけです。
「気持ち悪いが、今夜は寒いし、仕方がないか」
小間物売りは外で木ぎれを拾ってくると、いろりで燃やし始めました。
体が温まると、眠たくなってきます。
「どれ、寝るとするか」
小間物売りが横になってうとうとしていると、小さな手燭(てしょく→携帯用のロウソク立て)を持った女の人が入ってきました。
まるで、作り物の様に美しい人です。
「すみません。留守にしまして」
「ああ、いや。住んでいる方がいるとは知らず、勝手に上がり込んで申し訳ない」
「構いませんよ。遠慮せず、泊まってください。ですが外で夕飯をすませてしまって、何もお出しする事が出来ません」
「いや、こっちも夕飯はすませましたし、屋根の下で寝かせていただけるだけで十分です」
「では、おなぐさみに、三味線(しゃみせん)など聞いていただこうかしら」
女の人は三味線を持って来ると、
♪シャン、シャン、シャン
と、かきならしました。
(ほう、なかなかのものだ)
小間物売りが思わず聞きほれていると、ふいに首筋辺りが締め付けられ、息がつまりそうになりました。
首に手をやると、細い糸が何本も巻きついています。
(なぜ、こんな物が?)
小間物売りは巻きついた糸を、一本一本むしり取りました。
「あの、どうかなさいましたか?」
「いえ、何でもありません。どうか、お続けください」
女の人は、三味線をかき鳴らしました。
♪シャン、シャン、シャン
するとまた糸がからまってきて、首を締め付けてきます。
小間物売りは小刀を取り出すと、糸を切りました。
(何だこの糸は、どこから来るのだ?)
小間物売りが部屋の中を見回しますが、女の人はそんな事は気にもせずに三味線をかきならします。
(また糸だ!)
小間物売りが小刀で糸を切りながらふと目をこらすと、首に巻きつく糸は女の人の着物のすそから伸びているではありませんか。
(さては、この女の正体は!)
小問物売りは女の人に飛びかかると、小刀で女の人を切りつけました。
「ウギャャャャーーーー!」
切られた女の人は悲鳴をあげると、外に逃げて行きました。
女の人を切りつけた小刀を見てみると緑色のネバネバした液体がついており、赤い血は一滴も付いていませんでした。
小間物売りは外に出て行くのが怖くて、一晩中ガタガタと震えていました。
翌朝、外が明るくなったので小問物売りが恐る恐る外に出てみると、すぐ近くにあみがさの様な大グモが死んでいたという事です。
おしまい