きょうの江戸小話
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11月29日の小話

タコのだしがら

タコのだしがら

 山おくのあるへんぴな村に、魚うりがやってきました。
 村の人たちがよびとめて、おけをのぞくと、あたまがまるくて、八本足のものがありました。
「これは、なんというものかね?」
「タコですよ。ゆでてたべると、そりゃあうまいもんだ」
「へえ、これがタコっちゅうもんかい。よし、かってみよう」
 村の人たちは、さっそく、お湯をわかして、タコをゆではじめました。
 タコはまもなく、まっ赤にゆであがりましたが、どうやってたべるのか、だれも知りません。
 そこに、たびの男がとおりかかって、
「その、タコのだしがらを、ごちそうしてもらえんかのう」
と、たのみました。
 村の人たちは、たびの男にきかれないように、ちょっとそうだんです。
「タコのゆでたものを、だしがらだといったぞ。つまり、タコは身をくうものでなく、だしじるをのむものにちがいない」
「だしがらなんか、うまくないにきまっているからな。こんなものをくったら、せけんしらずと、おもわれてしまう」
「いくら山おくぐらしのわしらでも、タコのだしがらはいらんよ」
と、おいしいゆでダコを、まるごと、たびの男にやってしまい、みんなで、ゆでじるをすすりました。
 ズズズーーーッ

おしまい

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