3月27日の日本民話
なまことクジラの泳ぎ勝負
山口県の民話
むかしむかし、日本の海には、たくさんのクジラが住んでいました。
クジラは体が大きくて力持ちで、それに泳ぎの名人ですから、どんな魚もかないません。
だからクジラたちは大いばりで、毎日ゆうゆうと海を泳いでいました。
さあ、おもしろくないのは魚たちです。
「何とかして、クジラをやっつける方法はないだろうか?」
毎日のように集まっては相談しましたが、いい方法は浮かびません。
するとそこへ、なまこがやってきました。
「よし、わしにまかせてくれよ」
なまこはそう言うと、一人でクジラの親分のところへ行きました。
「こんにちは、クジラの親分さん、あの、一つ頼みがあります。わしと向こうの岩まで泳ぎ比べをしてくれませんか?」
それを聞いたクジラの親分は、
(のろまで有名ななまこが、何を馬鹿な事を)
と、思いましたが、ここで断ったら、なまこに負けた事になります。
「いいだろう、さっそく始めよう」
クジラの親分は向こうの岩をめざして、ゆっくりと泳ぎはじめました。
いくらゆっくり泳いでも、なまこに負ける心配はありません。
それでも、あっという間に向こうの岩に着いてしまいました。
(さて、なまこのやつ、いつ泳ぎ着く事か)
そう思って、ふと前を見ると、なんとそこにはなまこがいて、
「おやおや、ずいぶんと遅かったですね。今まで何をしていたのですか?」
と、言うではありませんか。
「そんなばかな!」
クジラの親分は、どうしてなまこに負けたのか、さっぱりわかりません。
「よし、今度は、あの岬まで勝負だ!」
言うなり、クジラの親分はものすごい勢いで泳いでいきました。
「よし、これなら大丈夫だ」
岬についたクジラの親分が、後ろを振り返ろうとすると、
「やあ、今度は、さっきより早かったですね」
と、目の前の岩で、なまこの声がしました。
「なに! いったい、どうなっているんだ?!」
すっかりあせったクジラの親分は、今度はあの岩、次はあの岬と言って、なまこと何度も泳ぎ勝負をしましたが、不思議な事に、いつも負けてしまいます。
さすがのクジラの親分も、すっかり困ってしまいました。
(なまこに負けたなんて事がばれたら、ほかの魚に馬鹿にされてしまう。・・・仕方がない。出ていこう)
そこでクジラの親分は子分たちを引き連れて、遠い南の方の海へ引っ越していきました。
日本の海にクジラがいなくなったのは、その時からだそうです。
さて、なまこはどうしてクジラの親分に勝ったのかというと、実は、なまこは仲間たちと相談して、あちこちの岩にはじめから隠れていたのです。
そんな事とは知らないクジラの親分は、自分が負けたと思い込んだのでした。
おしまい
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