3月31日の日本民話
花散る下の墓
大阪府の民話
むかしむかし、大阪の町に、河内屋惣兵衛(かわちやそうべえ)という人がいました。
惣兵衛(そうべえ)の屋敷には、年をとった一匹のぶちネコがいます。
このネコを一人娘のお千代(ちよ)は、まだ子どものころから大変可愛がっていました。
お千代のそばにはいつもネコがいるので、町の人は、
「お千代のむこさんは、ネコだよ」
と、かげ口をいっていました。
それを耳にした惣兵衛は、こんなことでは娘がお嫁にいけない、なんとかしないとと、いつも考えていました。
さて、春も浅い、ある晩の事。
家の者が集まって、ひそひそ話をしています。
「ネコはすてても、必ず帰ってくるというからのう」
「かわいそうじゃが、殺すしかほかあるまい」
その日から、ぶちネコの姿が見えなくなりました。
ところが、いく日かたったある晩の事。
惣兵衛がふと、まくらもとを見ると、ぶちネコがいます。
「おお、ぶちか。なんでお前は、姿をかくしおった」
と、たずねると、ぶちネコはかなしそうにいいました。
「はい。わたくしがおりましては、おじょうさまのためにならないと申されましたので、このまま姿を消そうかと思いました。ですが、そのようなわけにもまいりません。と、いうのも」
ここまで言うと、ネコはきちんと前足をそろえて、しんけんな顔で惣兵衛に言いました。
「この屋敷には、年をへた化けネズミが一匹、住みついております。そいつがおじょうさまに見いって、おそばに近づこうといたしますので、わたしがお守りしておりました」
「おお、そうか。それは、すまぬことをした。だが、お前はネコでありながら、なぜネズミがとれぬのじゃ?」
「はい、だんなさま。ネズミをとるのがネコの役目なれど。この化けネズミだけは、とうていわたしの力ではかないませぬ。そこでお願いがございます。島の内の市兵衛(いちべえ)さまの家にとらネコが一匹おります。とらとわたしとが力を合せれば、必ずその化けネズミを退治する事が出来ましょう」
そういったかと思うと、ネコの姿は、かき消すようにきえてしまいました。
「ああ、夢であったか」
あくる朝、惣兵衛が夢の事を妻に話すと、妻は、
「まあ。さようでしたか。じつは私も同じ夢を見ました」
と、言うので、さっそく惣兵衛は、島の内の市兵衛さんのところへ出かけて行って話しをしますと、市兵衛はすぐにとらをかしてくれたのです。
とらをだいて家へ着くと、ぶちネコが玄関にすわって出むかえました。
二匹はなかよくご飯を貪べると、庭へ出て、今が盛りの桜の下で舞いおちる花びらにじゃれあって楽しく遊んでいました。
夜になるとネコは夫婦の夢に現れて、二人に語りかけます。
「いよいよ、あすの夜は化けネズミを退治します。日が暮れましたら、わたしたちを二階にあげてください」
そのあくる日。
夫婦は二匹のネコを、日が暮れるといわれたとおり二階にあげました。
家の者は、心配そうに夜のふけるのを待ちました。
とつぜん、二階で物音がしたかと思うと、ドシン、バタンと物を落すような音や、走りまわる音がします。
長い長い時がすぎ、やっと二階の物音がやんで、あたりはしーんとしずまりかえりました。
「それっ」
と、惣兵衛が灯りを持って二階ヘかけあがると、なんとネコよりも大きなネズミがたおれていたのです。
大ネズミは、ぶちネコにのど首をかまれたまま死んでいます。
そしてそのぶちネコも、大ネズミに頭をかまれて死んでいました。
島の内のとらはと見れぱ、大ネズミの腹にかみついたまま虫の息です。
さっそく手厚い治療をすると、とらは命をとりとめることができました。
惣兵衛はとらネコをだいて、市兵衛宅へでかけ、あつくお礼をのべて帰ってきました。
死んだぶちネコは、桜の木の根もとに、千代が墓を立ててほうむったという事です。
おしまい
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