6月9日の日本民話
殿さまはもの知らず
岡山県の民話
むかしむかし、ある殿さまが、ほんのわずかなけらいをつれて、自分の領地(りょうち)の見回りにいきました。
お百姓(ひゃくしょう)たちは、殿さまが見回りに来ているなんて知りませんので、あちこちの畑で、こえだめから下ごえをくみ出して、それを作物の間にかけていました。
そのにおいがあまりにもくさく、殿さまは鼻をつまんでたずねました。
「なんじゃ、このにおいは? あれは、何をしておるんじゃ?」
「はっ、おそれながらあれは、下ごえともうしまして、人の小便や大便をこえだめで腐らせて、畑にかけているのでございます。そうすると、野菜がおいしゅう食べられるのでござります」
「それでは、わしが食べる野菜も、そうしておるのか?」
「はっ、まことにおそれながら」
「きたないのう。この先、わしが食べる物には、あのような物を決してかけるでないぞ」
それからしばらくして、こやしをかけずに作った野菜を殿さまにさしだしたところ、
「おや? どうも、いつものようなうまさがないが?」
と、言うのです。
家来がわけを話すと、殿さまは家来に野菜の入ったうつわを突き出して、
「こうもまずいのなら、これへ、下ごえとやらをかけてきてくれ」
と、いったという事です。
おしまい
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