6月17日の日本民話
カイコの犬
島根県の民話
むかしむかし、あるところに、一人の娘が、カイコから絹糸を取って暮らしを立てていました。
ある年の事、娘が飼っているカイコが病気にかかり、次々と死んで、ついに一匹だけになってしまったのです。
一匹だけでは仕事にならないので、娘は絹糸を取る仕事をやめようかとも思いましたが、残った一匹がとても可愛いくなって、娘はその一匹を大切に大切に育てたのです。
するとその一匹のカイコは、毎日毎日、桑(くわ)の葉をたくさん食べて、どんどん大きくなっていきました。
そして、今まで見た事もないほど大きなカイコになったのです。
ある日の事、娘がそのカイコに新しい桑の葉をやろうと、ちょっと目を離したすきに、この家で飼っている白犬が、カイコをパクリと呑み込んでしまったのです。
「ああ、たった一匹のカイコが・・・」
娘は、その日から仕事を失って、とてもがっかりしました。
そんなある日、白犬がしきりにくしゃみをしているので、娘が見てみると、不思議な事に白犬の鼻の穴から、二筋の繭(まゆ)の糸が伸びていたのです。
「もしかして、カイコを食べたせいかしら」
娘が糸を引っ張ると、糸はどこまでも伸びていきます。
そこでその糸で糸巻きを始めると、娘が一年間に取る事が出来る絹糸と同じ量の絹糸を作る事が出来たのです。
でも、糸が出なくなると同時に、今度は白犬がバタンと倒れて死んでしまいました。
カイコにも飼い犬にも死なれてしまった娘は、泣いて泣いて泣き疲れて、その場で寝てしまいました。
すると夢の中に飼い犬が現れて、こう言うのです。
「ご主人さま、悲しまなくても大丈夫。わたしとカイコは、天国へ行ったのですから。それよりも、わたしを裏の桑の木の下へ埋めて下さい。そうすれば、来年は、きっと良い事がありますよ」
目を覚ました娘は、さっそく夢で告げられた通りに、犬を家の裏の桑の木の下に埋めてやりました。
そして次の年、桑の木は一年でとても大きく成長し、桑の木の下からは、元気なカイコがたくさん出てきたのです。
このカイコはやがて質の良い繭をたくさん作り、よい絹糸がたくさん作れた娘は、それを売って幸せに暮らしたという事です。
おしまい
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