7月13日の日本民話
なべのふた
北海道の民話
むかしむかし、ニシンでさかえた北海道の江差(えさし→北海道おしま半島の日本海岸にある港町)に、しげじろうという、とんちのきく男がいました。
ある日の事、しげじろうがお腹を空かして町を歩いていくと、イモをにているおいしそうなにおいがただよってきました。
「おや? どこの家でにているんだ?」
においをたどっていくと、知り合いの家の前に出ました。
(こいつはいい。うまいことして、イモを食ってやろう)
そう考えたしげじろうは、
「やあやあ、お天気も良くて、いいあんばいですな」
と、あいさつをしながら知り合いの家に近づいていきました。
しげじろうに気がついたこの家のおかみさんは、しげじろうにイモを食べられてはたいへんと、ナベにふたをして知らん顔です。
しげじろうは、ずかずかといろりばたにあがりこむと、おかみさんにいいました。
「さっきな、アミ元の家のとなりで、ものすごい夫婦げんかがあったんだ。これがひでえのなんの、こんなすごいけんかは見たことがねえ」
するとおかみさんが、話しにつりこまれて、
「ほう、そうね。して、どんなようすだったね?」
と、ききました。
しげじろうは、ニヤリと笑うと、
「まあ、きいてくれや。おやじがてんびん棒をふりあげて、かあちゃんをぶんなぐりかかった」
「そっ、それで?」
「ところが、かあちゃんもまけていない。ナベのふたをパッととって、てんびん棒をガチンとうけとめた」
しげじろうはそう言いながら、ナベのふたをとりました。
ナベの中では、イモがおいしそうににえています。
「ありゃ、イモをにてたのか。あっ、そうそう、それでな、そのかあちゃんもイモをにておってな。おやじのてんびん棒をナベぶたでうけとめておいて、もう片っ方の手で、ナベのイモをおやじの口ヘ『むぎゅーっ!』て、押し込んだんだ。すると、『あちちち。むぎゅーっ! あちちち、むぎゅーっ、あちちちっ・・・』」
しげじろうは次々にイモを自分の口へ押し込んで、残らず食べてしまいました。
「はい、ごちそうさん。これが夫婦げんかのようすさ」
と、言って、どこかへいってしまいました。
おしまい
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