きょうの日本民話
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7月26日の日本民話

古木の血 弘法話

古木の血 弘法話
三重県の民話

 むかしむかし、三重のある村の長者が庭に出て涼んでいると、西の空が明るく光り輝いているのが見えました。
「はて。あれは、何の光じゃろうか?」
 不思議に思った長者が行ってみると、となり村とのさかいにある小さな湖に枯れ木が浮いていて、それがまばゆい光を放っているのでした。
「これは湖の底にあるという、竜宮御殿に使われている木の一部にちがいない」
 長者が枯れ木を湖から引き上げると木は光らなくなりましたが、長者はそれを家に持って帰って大切にしました。

 それからしばらくたったある日、旅の途中の弘法大師(こうぼうだいし)が、この村を通りかかりました。
 大師が来たことを知った長者は、大師を自分の屋敷に招いてもてなすと、あの光る枯れ木の話をしました。
 すると大師は、床の間に置かれていた枯れ木をじっと見つめて言いました。
「確かに、この木からは、ただならぬ力を感じる。
 もしよろしければ、この木で地蔵菩薩(じぞうぼさつ)の像を彫りたいと思うが、いかがであろうか」
「それはそれは、まことにありがたいことで」
 有名な大師が彫ってくれるというので、長者は大喜びです。

 大師は長者から一本のノミを借りると、菩薩像の頭から彫っていきました。
 カーン、カーン。
 大師がひとノミ入れるたびに、枯れ木は不思議な光を放ちます。
 さすがの大師も、少し興奮気味です。
 ところが一心に刻んでいって、菩薩像を腰のあたりを彫り進んだとき、突然枯れ木から真っ赤な血が流れ出たのです。
 これには大師も驚いて、
「ぬぬっ。この木は、生身の菩薩じゃ。わたしの様な未熟者では、これ以上木を刻む事は出来ません」
と、言うと、がっくりと肩を落として彫るのをやめてしまいました。

 こうして腰から下が未完成の菩薩像は村のお寺へと移されて、お寺の本尊としてまつられたという事です。

おしまい

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