9月6日の日本民話
金剛院とキツネの仕返し
むかしむかし、あるところに、金剛院(こんごういん)という山伏(やまぶし)がいました。
金剛院はあちこちの山々を巡る長旅のあと、ホラ貝を吹き鳴らして、元気に自分の村へと帰ってきました。
そして村の入口の丘のそばまでやってくると、その丘の下のやぶかげに一匹の大ギツネがいて、気持ちよさそうにグウー、グウーといびきをかいて昼寝をしているのです。
「おや、キツネか。・・・ちと、いたずらしてやろう」
いたずらを思いついた金剛院は、ぬき足さし足で寝ている大ギツネのそばへよって行きました。
そして、ひもで首にぶらさげている大ホラ貝を、キツネの耳もとにあてがい、
ボウーッ!
と、吹き鳴らしたのです。
さあ、キツネはびっくりです。
ケーーーーン!
キツネはひと声あげて飛び上がると、転がるように逃げて行きました。
「わっはっははは」
金剛院は、腹をかかえて笑いました。
その次の日の晩、町で修験者の寄り合いがあって、村に帰ったばかりの金剛院も、その寄り合いに出かけました。
村々の山伏たちもあちこちから集まってきて、町の方へ歩いていきます。
するとその途中で、山伏たちは珍しいものを見つけました。
何と一匹のキツネが人の通るのも気づかずに、池のはたで人間に化けているのです。
水鏡に自分をうつしながら草や木の枝を頭に乗せたり、肩にかけたりしているのです。
みんなが足を止めてそっと見ていると、キツネはぶるぶると身体を震わせて、何と金剛院の姿になってしまいました。
これを見ていたみんなは、
「なんと、キツネが金剛院に化けたぞ」
「ああして寄り合いにやって来て、我々をだますつもりなんだな」
「よし、金剛院がやってきたら、すぐに捕まえて、うむをいわさず松葉いぶしにかけてやろう」
と、相談をしました。
そしてみんなは寄り合いに行くと、金剛院が来るのを、今か今かと待ち構えていました。
さて、そこへやってきたのが、本物の金剛院です。
「やあ、どうも遅れまして」
そういって入ってくると、一人の修験者が、
「ああ、金剛院さんだ」
と、駆け寄ってきて、金剛院の片手を掴みました。
そして、別の一人が、
「ああ、金剛院さんだ」
と、これも金剛院の片手を掴みました。
それから、ほかの連中も次々と、
「金剛院だ。金剛院だ」
と、みんなでがっしりと押さえつけました。
金剛院は、不思議でなりません。
すると、修験者の一人が言いました。
「さあ、早く尻尾を見せろ」
また、別の一人が、
「耳を引っぱれ。そうすれば、すぐに化けの皮がはげる」
そんなこんなで、みんなは金剛院の耳を引っぱったり、お尻の尻尾を探しました。
それまで、何が何だかわからなかった金剛院も、ようやく自分がキツネに疑われていることがわかりました。
そこで、
「何をする! わたしは本当の金剛院だ。昨日、旅から帰ったばかりだ。耳も人間の耳なら、尻にキツネの尻尾もない」
と、言いましたが、みんなは、なかなか承知しません。
「何を煎ってやがる! キツネのぶんざいで生意気な! 我々は、きさまが金剛院さんに化けるところを見てきたばかりなんだぞ!」
「それ、なわを持ってきて、ぐるぐるまきにしろ。ずるがしこいキツネは、こんな事では正体を現らわさんぞ」
そこで、金剛院はなわでぐるぐる巻きにされてしまいました。
そのうえ、誰かが竹の棒で、バシバシと金剛院の背中を打ちました。
「こら! これでも正体を現らわさんのか! これでも正体を現らわさんのか!」
しかしキツネでない金剛院には、正体を現すことが出来ません。
「待て、待ってくれ! わたしは、本当に本物の金剛院です。決して、キツネなんかじゃありません!」
金剛院は、目に涙を浮かべながら言いました。
「何だと。まだ我々をだますつもりだな。では、いよいよ松葉いぶしだ」
とうとう寄り合いの場所の庭で青い松葉に火がつけられて、煙がもうもう立ちあがりました。
みんなはそれをうちわであおいで、金剛院の顔にあおりたてます。
「ゲホ! ゴホ! ゲホ!」
キツネでない金剛院は煙にむせて、まったく、ひどいことになりました。
しかし、いつまでたっても正体を現さない金剛院に、みんなは少し気味が悪くなってきました。
「どうも変だぞ。もしかして、本当の金剛院さんじゃないのか? もしそうだったら、大変すまないことをしてしまったぞ」
その時、庭先からみんなの前にキツネが姿を現して、
「ケン、ケン、ケン、ケン」
と、楽しそうに笑うと、どこかへ消えてしまいました。
「しまった! これはキツネの罠だ。この金剛院さんはキツネではなく、本物の金剛院さんだ!」
あわてて金剛院を助け出したみんなは、金剛院に平謝りに謝ると、みんなでキツネが金剛院に化けていた話をしました。
「そうか、それではあのキツネが仕返しに」
金剛院も、昨日、ねむっているキツネをホラ貝でおどろかせた話をしました。
それから山伏たちは、昼寝のキツネを見つけても、決していたずらをしなくなったそうです。
おしまい
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