9月20日の日本民話
アワの長者
静岡県の民話
むかしむかし、あるところに、働き者ですがとてもまずしい男がおりました。
「あーっ、はらへったなあー」
はらをすかせた男の見る夢といったら、いつも食べ物の夢ばかりです。
そんなある夜のこと、男は不思議な夢を見ました。
広い荒れ地に白いウマが現れて、金色にかがやくアワの穂(ほ)を食べている夢です。
夢からさめた男は、夢に出てきたその場所に見覚えがあることに気がつきました。
そこでつぎの日、さっそく夢に出てきた場所にやってくると。
「なんと、夢とおんなじじゃ」
そこには夢で見た白いウマが、よく実った金色のアワの穂を口にくわえていたのです。
「ああ、ありがたや。きっとこれは、ここをたがやせという神さまのおぼしめしにちげえねえ」
男は夢中で荒地をたがやして、白いウマがくわえていた金色のアワの穂をうえました。
さて秋になると、男のうえたアワの穂はみごとに実り、金色にかがやくアワで目もくらむばかりの大豊作です。
こうして男は、アワの長者とよばれる大金持ちになりました。
男はありあまるアワを家の屋根からかべまで、あらゆるところにぬりこめて、ピカピカの家を建てました。
それから何年かたったある年のこと、村はひどいききんにみまわれました。
食べる物がなくなった村人たちは、みんなであわの長者の家にやってきて言いました。
「アワをめぐんでくだせえ。アワの長者さま」
ですが、金持ちになってすっかり心の変わってしまったアワの長者は、
「ふん、アワはわしのものじゃ。お前らには一つぶたりともやらんわい」
と、村人たちを追いかえしてしまったのです。
ですが空腹にたえかねた村人たちは、長者が寝ているすきに、長者の家のかべにぬりこめてあったアワをむしり取り始めました。
すると長者は、かべのアワをとられないように、かべというかべに何重にもあつくドロをぬりつけたのです。
その夜、長者はひさしぶりにぐっすりとねむりにつきましたが、夜中になって、カリカリ、カリカリと音がするのに気づきました。
「おや? あの音は何じゃ?」
それは、アワをたくわえている倉の方から聞こえてきます。
長者がねむい目をこすりながら、倉へ来てみると。
「ネ、ネズミじゃあ!」
何千、何万というネズミが、カリカリ、カリカリとアワを食べていたのです。
そしてネズミたちは倉の中のアワを全て食べつくすと、やがてひとかたまりになって外へとびだし、白いウマにすがたをかえて、空にかけのぼっていったのでした。
「あっ、あの白いウマは、わしが夢の中でみた神さまのウマ!」
長者は、自分がまずしい生活を送っていたことを思い出しました。
「わしは神さまによって長者にさせてもろうたのに、まずしい人にアワの一つぶもめぐんでやらんかった。じゃから、神さまがおこりなすったんじゃ。神さま、ゆるしてくだせえ」
それからというもの男は百姓(ひゃくしょう)にもどって、また畑をたがやしはじめたという事です。
おしまい
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