11月20日の日本民話
お坊さんになりたかったキツネ
東京都の民話
むかしむかし、江戸の小石川(こいしかわ)の町にあるお寺の学校に、沢蔵司(たくぞうし)と言う若い男が、お坊さんになるためにやってきました。
沢蔵司は頭が良くて、一番あとから入ってきたのに、先の先輩たちをどんどん追いぬいてしまいました。
そして何年もしないうちに、
「沢蔵司は、秀才だ」
と、いわれるようになっていました。
ところが毎日お寺へ学びにくるのに、沢蔵司がどこにすんでいるのか、知っている者はだれもいません。
「この前、あいつのあとをつけて、お寺の裏の森のあたりまでいったんだが、すーっと、どこかへ消えてしまったんだ」
友人たちはそういって、首をかしげていました。
お寺の門前にある、そば屋の主人もまた、沢蔵司のことを不思議に思っていました。
沢蔵司は毎晩のようにお店へそばを食べにきたり、そばを持ち帰ったりするのですが、お店にくるのは決まって、だれもお客がいないときなのです。
そこでそば屋の主人はある夜、ひそかにあとをつけてみました。
沢蔵司は友人の時と同様に、お寺の裏の森のところで姿を消しましたが、そば屋の主人がちょうちんの灯をかざしながら、そのあたりを調べてみてびっくり。
草むらの中に、そばをつつんであった竹の皮がたくさんすてられていたのです。
「なるほど。これでわかった。あの沢蔵司は、この森にすむキツネだ」
そば屋の主人はうなずきながら、お店へ帰っていきました。
沢蔵司は正体に気づかれたのを知ったのか、次の日からお寺にこなくなりました。
それから何年かたった、ある日のことです。
沢蔵司は突然、お寺の和尚さんをたずねて、
「自分はお寺の裏の森にすむ二百才の白ギツネで、お坊さんになりたくて勉強をしていました」
と、うちあけると、白ギツネの姿になって森に消えていったそうです。
おしまい
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