12月20日の日本民話
峠の一本足
奈良県の民話
むかしむかし、十津川(とつかわ)の奥の伯母子岳(おばこだけ)という山の峠(とうげ)に、人間を食べる『一本足』というバケモノが現れて、峠の道を通る人たちをおそうようになりました。
ある時の事、高野山(こうやさん)の西にすむ猟師が、山の峠(とうげ)で美しい娘を見かけました。
「娘がこんなところに一人でおるとは、奇妙な事じゃ。これは、バケモノかもしれんぞ。このあたりには一本足ばかりか、ほかにもバケモノがすむようになったのかもしれん」
自分にそういいきかせて、猟師は鉄砲(てっぽう)の引き金に指をかけていました。
そのとき、むこうのやぶの中に立っている娘が猟師を見て、ニヤリと笑ったのです。
猟師はおそろしくなり、思わず鉄砲の引き金をひきました。
ズドーン!
でも娘は笑いながら、飛んできた鉄砲の玉を、両手の手のひらでピタリとうけとめたのです。
「このバケモノめ!」
猟師はつづけて、もう一発うちましたが、娘はその玉も両手でうけとめると、猟師の方へとせまってきました。
「まっ、待ってくれ。あと十日、いや、七日だけでいい、わしの命を取らないでくれ。お願いだ」
猟師が泣きながらたのみこむと、娘のバケモノは、だまってやぶの中へ消えていきました。
猟師がその後ろ姿を見ると、なんと一本足ではありませんか。
峠の一本足が、美しい娘に化けてでてきたのです。
猟師は家に帰ると、村の守り神をまつる神社に毎日でかけて、いのりつづけました。
すると六日目のこと、神さまからお告げがあったのです。
「玉を二つ、一緒に鉄砲にこめてうて」
娘のバケモノと約束した七日目の朝、猟師はバケモノと出会った峠へいきました。
まわりを見まわすと、やぶの中に、また娘に化けている一本足の姿が見えました。
猟師が鉄砲をかまえると、
「あはははは。鉄砲なんて、無駄よ」
娘はそう言うと、この前と同じようにニヤリと笑っています。
「やってみないとわかるもんか! いくぞ!」
ズドーン!
猟師が引き金をひくと、娘は飛んできた玉を両手でピタリとうけとめましたが、続けて飛んできた二発目の玉はうけとめられず、その場にたおれてしまいました。
今度はバケモノが、
「助けてくれ!」
と、いう番でした。
「人の命をとらないと約束するなら、助けてやるが」
猟師がいうと、バケモノは、
「だが、人間の命をとらねば生きてはいけぬ。だから、一年のうち、十二月二十日だけは、ここを通る者の命をもらいたい」
と、いったのです。
猟師は一年で一日だけならゆるしてもいいと思い、バケモノの願いをききいれることにしました。
すると美しい娘の姿は消えて、一本足のバケモノはうれしそうにピョンピョンとはねながら、やぶの中へ消えていったという事です。
今でも十二月二十日は「果ての二十日」といって、山に入る事を禁じている地方があるそうです。
おしまい
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