きょうの日本民話
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2009年 1月7日の新作昔話
クジラとモグラ
和歌山県の民話
むかしむかし、文覚(もんがく)という偉い坊さんが、日本一の那智(なち)の滝で修行しようと思って、熊野(くまの)へやって来ました。
熊野浦(くまのうら)にくると、大シャチが子クジラを追いまわしていたたので、坊さんは大シャチに自分の弁当をやって、代わりに子クジラを逃がしてもらいました。
すると子クジラは、何度も頭を下げて、
「このご恩はけっして忘れません。きっとご恩返しをいたします」
と、いって、海の中へ沈んでいきました。
また少し行くと、道ばたでモグラが子供たちにいじめられていたので、坊さんは子どもたちにお菓子をやって、代りにモグラをはなしてもらいました。
モグラは、何度も何度も頭を下げて、
「このご恩はけっして忘れません。きっとご恩返しをいたします」
と、いって、畑の穴の中に入っていきました。
お坊さんが那智の近くまでくると、どこからかかわいらしい男の子がやってきて、
「那智の滝に行くなら、恐ろしい赤鬼に注意しないといけないよ。もし赤鬼が出てきたら、このアメをなめさせなさい」
と、いって、アメの入ったきれいなつぼをくれました。
お坊さんが那智の大滝に着くと、男の子のいっていた赤鬼がドスンドスンとやって来て、問答(もんどう)の勝負をしようと言うのです。
「もし、お前が問答勝負に負けたら、食ってやるからな」
すると坊さんは、アメの入ったつぼを差し出して、
「その前に、このアメをなめてみろ」
と、いいました。
「うん? なんだ、こんなもの。腹の足しにも・・・」
鬼はアメを一つ口に入れてみると、これがなかなかおいしいのです。
そこで、二つ三つと口にほうり込み、うまい、うまいといいながら、問答勝負を忘れてどこかへ行ってしまいました。
さて、お坊さんがさっそく滝にあたって修行をしようとしたものの、滝つぼの水が多くて、滝の下まで行くことができません。
それを見たモグラは恩返しをするのは今だと思って、日本中のモグラを呼び集めて、滝つぼの底から海までの長い長いトンネルを掘りました。
これを見たクジラは恩返しをするのは今だと思って、日本中のクジラを呼び集めて、トンネルから流れ出てくる水を吸い込んでは海の上にはき出しました。
すると滝つぼの水はみるみるへって、お坊さんはらくらくと滝の下に行くことが出来たのです。
このときモグラの掘ったトンネルは、那智の滝から勝浦の海に続いており、その穴からは今でも真水が噴き出ているのです。
また、お坊さんにアメをくれた男の子は那智の観音さまで、そのアメは『那智黒』といって、今では那智の名物になっているのです。
おしまい
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