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2009年 3月15日の新作昔話
弥藤次荒神(やとうじこうじん)
兵庫県の民話
むかし、江戸時代末頃、出石藩(いずしはん)に弥藤次(やとうじ)という怪力の持ち主がいました。
なにしろ、小指ほどの太さの長い鉄火ばしを両手に持って、わら縄をなうように結ぶ事が出来たのです。
そのくらいの怪力男ですから、城でも重宝がられました。
参勤交代の行列の時などは、その力が買われて行列の先頭で先払いをしました。
当時、江戸までの道筋には、乱暴なならず者が多かったので、弥藤次にはもってこいの仕事だったのです。
ところがこんな弥藤次だけに、敵も多かったのです。
そこで恨みを持つ者に覚えのない罪をきせられて、打ち首という重罪を申し渡されました。
その日は朝からどんよりとした、気味の悪い天気でした。
後ろ手にしばられた弥藤次に、役人が最後の望みをたずねると、
「何も望みはありませぬ。ただこの世の名残りに、出石川(いずしがわ)の水を飲ませていただきたい」
と、弥藤次が言うので、
「まあ、そのくらいのことなら」
と、役人は弥藤次を川辺へと連れていきました。
弥藤次は、はいつくばって水面に顔を近づけると、次の瞬間に、
ザブン!
と、いう水音とともに、川の中に飛び込んだのです。
不意の出来事に、役人たちはあわてて弥藤次を探しましたが、どうしても見つける事が出来ません。
一方、弥藤次は、後ろ手に縛られたまま、千メートルも先にある水門まで無事に逃げ切ったのです。
ところが、せっかくここまできたというのに、運の悪い事に近くにやってきた老婆に見つかってしまい、その知らせでかけつけた役人に橋の上から槍で突かれて死んでしまいました。
それからというもの、この老婆の住む村にはよくない事が次々と起こりました。
みんなは弥藤次のたたりとおそれて、村に小さな祠が建てられました。
それが、今も出石川(いずしがわ)の中流の床尾(とこお)のふもとを下ったあたりにある、弥藤次荒神(やとうじこうじん)という祠だそうです。
おしまい
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