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2009年 6月3日の新作昔話
アルキメデスの肖像画
アルキメデス 一人で船を動かす
むかしむかし、アルキメデスという名前の天才数学者がいました。
彼の発見した法則や原理は、今の科学でも欠かすことの出来ない物となっています。
このお話しは、その天才数学者、アルキメデスのお話です。
アルキメデスが住んでいたシチリア島のシラクサの港で、数十人の奴隷(どれい)たちが、肩に綱(つな)をかけて海岸の倉庫から海へ船を引き出していました。
「こら、貴様ら、もっと力を入れんか!」
ムチを持った監視員は、奴隷たちが少しでも力を抜くと、容赦なくムチを振り下ろすのです。
「うっ!」
ムチで打たれた奴隷は、汗まみれの顔を苦痛でゆがめると、また力をふりしぼって船を引く綱を引っ張りました。
しかし船は海岸の砂地に底をめり込ませたまま、まるで海へ引かれるのを嫌がるように、わずかに動くだけです。
「何をやっているか! もっともっと力を入れろ! いつまでかかるつもりだ!」
また監視員のムチがうなり、背中を打たれた奴隷の一人が、その場に倒れてしまいました。
それを見ていたアルキメデスは、倒れた奴隷に手を貸して立たせてやると、監視員に聞こえるように、わざと大きな声で一人言を言いました。
「ああ、なさけない。こんな船ぐらい、わたし一人で引き出せるのに」
それを聞いた監視員は、アルキメデスに詰め寄りました。
「なんだと! 数十人もかかってやっと引き出せる船が、なんでお前のようなひょろひょろの力なしに、一人で引き出せるんだ!」
「引き出せるさ。力だけでなく、頭を使えばね」
「なにー! では、引き出せるものなら引き出してみろ!」
そして、周りにいた他の監視員たちもアルキメデスを取り囲みました。
「若造め、生意気な事をいいやがって!」
「やれるというのなら、王さまの所へ連れて行ってやるから、我々の目の前でやってみろ」
アルキメデスは、大きく頷きました。
「ああ、いいよ。やってやるよ」
こうしてアルキメデスは、シラクサの国王ヒエロンの所へ連れて行かれたのです。
監視員たちから話を聞いた王は、アルキメデスに言いました。
「大勢の奴隷たちと監視員が力を合わせて、やっと引き出せるものが、どうしてお前一人で引き出せるのだ?」
するとアルキメデスは、自慢げに答えました。
「頭と道具を使えば、こんな船を引き出すことぐらい、わけない事です。それどころか、もし地球の外へ出る事が出来るのなら、この地球だって動かす事が出来ます」
これには、王も家来たちもびっくりです。
王はアルキメデスが、自分を馬鹿にしてからかっているのだと思い、怒りを込めてアルキメデスに命令しました。
「では、わしの目の前で実際に船を動かしてもらおうではないか。もし出来なければ、お前を船引き奴隷にしてやるからな!」
命令を受けたアルキメデスは、王さまの船倉庫の中から、特別に大きな船を選びました。
そして滑車を通した綱の一方を船にしっかりと結びつけると、王に言いました。
「王さま、今から始めますので、どうぞごらんください。ああ、ところで王さま、このまま空の船だけを引き出すのでは、面白くありません。どうせならそこにある荷物や、見物の人たちを出来るだけたくさん船に乗せてください」
それを聞いた王さまは、アルキメデスにどなりました。
「貴様! 人を馬鹿にするにもいいかげんにしろ!」
しかしアルキメデスが、にんまりと大きく笑ったので、
「よーし。望み通りにしてやる」
と、家来たちに出来るだけ重い荷をたくさん運ばせると、周りにいた見物の人たちを次々と船に乗り込ませました。
ただでさえ大きくて重い船なのに、たくさんの荷物や多くの人たちが乗り込んだおかげで、船はいまにも、海岸の砂地に沈み込みそうです。
「では、始めますよ」
アルキメデスはそう言うと、滑車を通した綱の一方を、遠くから、ゆっくりゆっくりとたぐり寄せたのです。
すると、どうでしょう。
船がグラグラとゆらいだかと思うと、
ズズッ、ズズーーーー。
と、海岸の砂地を一直線に進み出したのです。
「なっ、なんと!」
王さまを始め、これを見ていた人々は、おどろきのあまり、ただ目を見張るばかりです。
このアルキメデスが船を動かした滑車とテコの原理を使った方法は、今の時代では当たり前ですが、その仕組みを知らない当時の人々には魔法としか思えなかったそうです。
こうして王に認められたアルキメデスは、この日から王の技術顧問となって、学問や技術の相談役となったのです。
おしまい
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