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夏の怖い話し特集
2009年 8月12日の新作昔話
エンコウ
高知県の民話
高知県ある地域では、むかしからカッパの事を『エンコウ』と呼んでいるそうです。
そのエンコウは、川が大きな淵(ふち)になっているところに住んでいて、夜になると岸へ上って来ると言われています。
そしてエンコウの歩いた跡は、とても生臭い匂いが残っていると言われています。
さて、明治二十年のある秋の夕暮れに、力自慢の男が川にかかった板橋の上にさしかかりました。
男が橋の上から川を見ると、今まで見た事もない動物が川上へ向かって泳いでいたのです。
「これは、噂に聞くエンコウにちがいない」
そこで男は、人間の頭ほどもある石を拾って、その動物に力いっぱい投げつけました。
ゴチーン!
石は確かに命中しましたが、日が落ちて暗くなって来たので、男はそのまま家へ帰ってしまいました。
次の日、橋の下流の方でエンコウが死んで川岸に打ちあげられたと、大騒ぎになりました。
そのエンコウは、頭の上に梅干しほどのくぼみがあり、手と足の指の間には水かきがついていて、とても嫌な匂いを放っていました。
「どうする? このエンコウ」
「どうするって、このままにしておくわけにはいかんだろう」
「そうだな、たたられても困るし」
そこで村人は占い師を呼んできて、どうすればいいのか占ってもらうことにしました。
すると占い師にエンコウの霊が取り憑いて、こう言ったのです。
「おらは、この川に住むエンコウじゃ。むかしからの言いつけで、あの橋から上流へは行ってはならんと言われていたが、おらはそれを破って、上流へ行ってみた。そして男に石を投げられて死んだのだ。おらが死んだのは、言いつけを破った罰だから、お前たち人間にたたることはない」
そして石を投げて男も、他の村人たちも、エンコウにたたられる事はなかったそうです。
おしまい
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