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2009年 10月7日の新作昔話

まぬけのハンス 姫まぬけのハンス ハンス王

まぬけのハンス
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 むかしむかし、ある町はずれの地主さんに、とても利口な二人の息子がいました。
 どのくらい利口かと言うと、上の息子は百科事典を丸ごと暗記しており、しかも三年分の新聞も、すみからすみまで全て覚えています。
 下の息子は、この国の法律を全て知っていて、この国の大臣よりも国の政治に詳しいのです。
 おまけに下の息子は指先が器用で、刺繍(ししゅう)も上手に出来ます。

 さて、二人の利口な息子は、この国のお姫さまに結婚を申し込む事にしました。
 それと言うのも、お姫さまが、
《一番お話しが上手な男の人と、結婚します》
と、おふれを出したからです。
 喜んだ地主さんは、上の息子には炭みたいにまっ黒な馬を、下の息子にはミルクみたいにまっ白な馬を与えました。
 そして二人の息子が上手にしゃべられる様にと、口のまわりに上等な油を塗っておきました。
 さて、いよいよ出かけるという時に、地主さんの三番目の息子のハンスが出てきました。
 このハンスは兄さんたちの様に利口ではなかったので、今回の仲間には入れてもらえなかったのです。
「ねえ、兄さんたち、いい服を着て、一体どこに行くの?」
「ああ、お姫さまとお話しをしに、お城へ行くのさ。お前、国中におふれが出ているのを知らないのかい?」
「へー、それじゃ、ぼくも行かなくちゃ」
「はあ? お前がかい? あはははははは」
 兄さんたちはケラケラと笑うと、さっさと馬を走らせて行ってしまいました。
 残されたハンスは、地主さんに言いました。
「ねえ、お父さん、ぼくにも馬をちょうだいよ。ぼく、お姫さまと結婚したいよ」
「とんでもない! お前なんかに、大切な馬はやれないよ。だいたいお前は、兄さんたちみたいに利口じゃないだろ」
「ならいいさ、ぼくはヤギに乗って行くよ」
 ハンスは自分のヤギを連れてくると、元気良く出かけていきました。
「ヤッホー!」
 兄さんたちに追いついたハンスは、兄さんたちに死んで干からびたカラスを見せました。
「ねえねえ、道でこんな物を見つけたんだよ。これを、お姫さまにプレゼントするんだ」
「ふん、まぬけめ!」
「そんなものをもらって、誰が喜ぶものか!」
 兄さんたちは鼻で笑って、先に行きました。
 しばらくすると、またハンスが叫びました。
「ヤッホー! 今度は、もっとすごい物を見つけたよ。見てごらんよ」
 ハンスが手に持っていたのは、長靴の片一方でした。
 兄さんたちは、また鼻で笑って言いました。
「ふん、お前は何てまぬけなんだ!」
「そうだ。そんな物、もらった方が迷惑だよ!」
 またしばらくすると、またまたハンスが叫んで差し出しました。
「ヤッホー! これは何だかわからないけど、でも、良い物に決まっているよ」
「まぬけめ! それは泥だぞ!」
「何が良い物だ!」
 兄さんたちはあきれかえって、ポケットに泥をつめているハンスをおいて、さっさと行ってしまいました。

 さて、お城の門では、お姫さまに結婚を申し込む人たちが、来た順番に並んでいました。
 国中の若者がやってきたのかと思うぐらい大勢の若者がいましたが、みんな、お城の中に入ったとたん、口がきけなくなってしまうと言うのです。
 そしてやっと、上の兄さんの番になりました。
(よし、頑張ってお姫さまと上手に話をするぞ)
 お城の中に入ると部屋の奥にはお姫さまが座っていて、その横には三人の記録係がペンを持って待ちかまえていました。
 そして部屋の中央では大きなストーブがまっ赤に燃えていて、この部屋の中は真夏の様に暑かったのです。
 そこで兄さんは、思わず言いました。
「この部屋は、ひどい暑さですね」
 するとお姫さまは、すまして答えました。
「ええ。それは、お父さまがニワトリを焼くからよ」
「へっ?」
 何の事やらさっぱりわからず、兄さんはすぐに返事が出来ません。
 するとお姫さまは、ぴしゃりと言いました。
「だめ! 不合格よ!」
 次は、二番目の兄さんです。
「ここは、ひどい暑さですね」
 二番目の兄さんも、同じ事を言いました。
「ええ、わたしたち、ニワトリを焼いているのよ」
「えっ、何ですって?」
 兄さんが言うと、三人の記録係も、
《えっ、何ですって?》
と、書きました。
「だめ! 不合格よ」
 さて次はいよいよ、ハンスの番です。
 ハンスはヤギにまたがったまま、ずんずんと部屋の中に入っていきました。
「やあ、燃えるような暑さだね」
「ええ、ニワトリを焼いているからよ」
 するとハンスは、すぐに言いました。
「そりゃ、ちょうどいいや、ぼくのカラスも一緒に焼いてくれるかい?」
「いいわ、でも入れ物は持ってるの? ここには、おなべもフライパンもないわよ」
「へっへー。ところが、あるのさ」
 ハンスは得意そうに長ぐつを取り出すと、中にカラスを入れました。
「まあ、用意がいい事。でも、ソースはどうするの?」
「それは、ぼくのポケットの中にいっぱいあるから大丈夫さ。お姫さまにも、少しぐらいならわけてあげるよ」
 ハンスは答えながら、泥をまきました。
 それを見たお姫さまは、にっこり笑って言いました。
「まあすてき、あなたはちゃんと答えて、上手にお話ししたわ。あたし、あなたと結婚するわ。でも、わたしたちの言った事は全部、明日の新聞に出てしまうのよ。三人の記録係と上役が見えるでしょう。あの上役が一番意地悪なのよ」
 お姫さまはハンスを怖がらせようとしましたが、ところがハンスはへっちゃらです。
「その上役にも、ソースをわけてあげよう」
 そう言って、ポケットの泥んこを上役の顔に投げつけたのです。
 それを見たお姫さまも、
「やったね! わたしもあなたを見ならうわ」
と、上役の顔に泥んこを投げつけました。

 こうして、お姫さまに認められたハンスはお姫さまと結婚して、この国の王さまになったのです。

おしまい

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