2010年 12月13日の新作昔話
イチジクと男
ユーゴスラビアの民話
むかしむかし、あるところに、とても人のよい男がいました。
この男は自分の家でとれる果物は、いつも王さまに届ける事にしていました。
ある年の事、マルメロの実が、あまり見事に実ったので、男はさっそく王さまのところに持って行こうと思いました。
そして、
「今年はマルメロがよく出来たから、あれをカゴにいっぱいにお届けしよう」
と、奥さんに言いました。
ところが奥さんは、せっかくの大きなマルメロを王さまにあげるのは、何だかもったいないと思い、こう言いました。
「あなた。マルメロよりも、イチジクにしなさいよ」
「ああ、お前が言うならそうしよう」
そこで男は、おいしそうなイチジクをカゴいっぱいに選んで、王さまのお城に届けました。
その時、王さまは、お昼ご飯中でした。
お酒も少しも飲んでいたので、ごきげんです。
「よく来た。さあ、こっちへおいで」
男は、うやうやしくおじぎをしてから、王さまの前に取れたてのイチジクを差し出しました。
「王さま、これは家で取れたイチジクでございます。どうぞ、たくさん召し上がって下さい」
それを見た王さまは、
(何だイチジクか。こんな物、少しも珍しくないな)
と、思いました。
そして王さまは、男をからかってみたくなりました。
「ほほう、どれどれ」
王さまはイチジクをつかむと、いきなり男の頭に投げつけたのです。
投げられたイチジクは、男の頭に当たってペチャリと潰れました。
すると男は、
「ありがたい!」
と、叫んだのです。
「なに、ありがたいだと?」
王さまは、またイチジクを投げました。
するとまた、ペチャリ。
「ありがたい!」
男がまた叫んだので、王さまは面白くなって、次々とイチジクを投げました。
「ありがたい! ありがたい!」
とうとうイチジクは、全部なくなってしまいました。
投げる物がなくなった王さまは、不思議そうな顔で男に尋ねました。
「なぜお前は、いちじくをぶつけられるのが、ありがたいのかね?」
すると男は、かしこまって答えました。
「はい。わたしは始め、マルメロを王さまにお届けするつもりでございました。
ところが妻は、マルメロよりもイチジクの方が良いと言うのです。
妻の言うことはいつも正しいので、わたしはその通りにしました。
でもその時は、なぜ妻がイチジクの方が良いと言ったのかわかりませんでした。
でも、いまは、わかりました。
もしもやわらかいイチジクでなくて、あの固いマルメロだったらどうでしょう。
わたしの頭は、今頃はたんこぶだらけです。
それで、
『ああ、マルメロでなくてよかった』
と、思ったら、ついありがたいと叫んでしまったのです。
それにしても王さま、わたしの妻は、何て賢い妻なのでしょう。
きっと妻は、こうなる事を知っていたのです。
そんな賢い妻と一緒に暮らせて、わたしは何て幸せ者でございましょう。
おお、神さま。
わたしの賢い妻に、おめぐみを」
これを聞いた王さまは、
「ぷっ」
と、吹き出してしまいました.
そして王さまは、この人の良い男に、イチジクのカゴいっぱいに、ごほうびのお金をやったという事です。
おしまい
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