2011年 8月31日の新作昔話
大蛇とお尻
千葉県の民話
むかしむかし、ある旅人が宿屋を出発しようとすると、宿屋の主人が声をかけました。
「お客さま、今からあの山を登っていくのですか?
それでしたら、くれぐれもお気をつけください。
実はあの山には、人食いの大蛇が出るとのうわさです」
すると旅人は、内心おびえながらも、
「平気平気。もし大蛇が出たら、反対におどかしてやりますよ」
と、強がりを言いました。
さて、宿を出発した旅人は、やがて山頂近くに到着しました。
「なんだか、薄気味悪い山だな。
これはもしかすると、本当に大蛇が出るかもしれないぞ」
ここから先は、細くて薄暗い道が続きます。
「・・・急ぐ旅でもないし、地元の人間の忠告は聞かないとな」
怖くなった旅人は、宿屋に引き返そうと来た道を振り返りました。
すると振り返ったところに大蛇がいて、大きな口を開いて旅人をのみ込もうとしたのです。
「うぎゃーー! 出たー!」
旅人は持ち物を放り投げると、一目散に逃げました。
ところが大蛇も負けずに、旅人を追いかけてくるのです。
「わあ、わあ、どうすればいいのだ!?」
旅人は少しでも大蛇が遅れるようにと、着ていた服を一枚一枚脱いで、大蛇に投げつけました。
すると大蛇は投げられた服をパクリパクリと食べて、食べ終わるとまた旅人に襲いかかって来たのです。
こうして旅人は最後のふんどしまでも投げつけたのですが、大蛇はそれもパクリと食べてしまうと、また旅人に襲いかかって来ました。
旅人は必死で逃げますが、どうしても逃げ切ることが出来ません。
旅人の足がついにもつれて、お尻を丸出しのままで倒れてしまいました。
「わあ、もう駄目だ!」
旅人が、お尻を突き出したままブルブル震えていると、大蛇は旅人のお尻を見てびっくりして、どこかへと逃げてしまいました。
「たっ、助かったー!」
何とか助かった旅人は、無事に宿屋へ逃げ込む事が出来ました。
「しかし、おれは、どうして助かったのだろう?」
旅人も宿屋の主人も、その理由が分かりませんでした。
実はあの大蛇、旅人の丸出しのお尻を見て、大きな口を持った化け物だと勘違いして逃げ出したのです。
おしまい
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