2011年 10月28日の新作昔話
ほら吹き男爵 大砲の玉の曲乗り
ビュルガーの童話
わがはいは、ミュンヒハウゼン男爵(だんしゃく)。
みんなからは、「ほらふき男爵」とよばれておる。
今日も、わがはいの冒険話を聞かせてやろう。
ところで諸君は、わがはいがリトアニア馬のような荒馬を乗りこなせるくらいだから、もっと変わった曲乗りも出来ると思うだろう。
その通りだ。
わがはいはある戦争で、大砲の玉の曲乗りをやって大手柄を立てた事がある。
何という町だったかは、もう忘れてしまったが、われわれの軍は、ある町を取り囲んだ。
わがはいは、じっくりと攻めるつもりだったが、せっかちな将軍は、
「城内の敵の様子を探って、早く攻め落とせ!」
と、うるさく言うのだ。
「しかし、ひと口に探るといっても、あんなに見張りのたくさんいる城壁をくぐって中に入る事は不可能ですよ。
それに、もしうまく忍び込んで偵察に成功しても、帰りにはきっと敵につかまります。
それより、しばらく様子を見ましょう。
敵の食料もなくなる頃だし、その時に一気に攻める方がいいと思います」
わがはいはそう言ったのだが、せっかちな将軍は、
「そんなのんきな事が、言っていられるか。ぐずぐずしているうちに、敵の援軍が来たらどうする」
と、言うのだ。
そこでわがはいは、
「大丈夫です。そんな場合の準備も、出来ています」
と、言ったのだが、将軍は、
「ふん!」
と、鼻でせせら笑うと、こんな失礼な事を言ったのだ。
「なるほど、何だかんだ言って、実は敵が恐ろしいのだろう」
これには、温厚なわがはいもカチンときて、
「それほどにおっしゃるなら、わがはいがまいりましょう」
と、言ったのである。
まあもちろん、考えあっての事だが。
さて、わがはいは敵に向かって大砲を一発ぶっぱなすと、その大砲の玉にさっと飛び乗った。
ブーーーン!
そしてわがはいを乗せた大砲の玉が、敵の城の真上に到達すると、
「なるほど、なるほど。あそことあそこにいるのか」
と、玉の上から中の様子を細かく観察して、今度は敵側から味方の陣地めがけて撃った大砲の玉にさっと乗りかえると、無事に帰ってきたのだ。
こうして、わがはいが探ってきた情報は大いに役立って、その日のうちに敵城は陥落したのだ。
「よくやった、よくやった」
将軍は、わがはいをほめたたえたが、わがはいは、あまりいい顔をしなかった。
わがはいだったからこそ、この大砲の玉の曲乗りで偵察が成功したのだ。
もし、ほかの部下がのこのこ出かけてみろ、おそらく城内に潜り込まないうちに戦死したにちがいない。
この男の様に、自分の名誉の為に部下を犠牲にするようなやつは、将軍としての資格はない。
わがはいは、この将軍がいっぺんに嫌いになった。
それにしても、この大砲の玉の曲乗りは、思った以上に風がきつくて寒かった。
おかげでわがはいはその夜、数年ぶりの風邪をひいてしまった。
今日の教訓は、『大砲の玉の曲乗りをする時は、厚着をしよう』だ。
では、また次の機会に、別の話をしてやろうな。
おしまい
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