2012年 7月16日の新作昔話
耳から魂を取られたお坊さん
むかしむかし、ある山のふもとのお寺に、怖い物知らずのお坊さんがいました。
ある晩の事、お坊さんは刀となぎなたをひっさげると、
「後ろの山には魔物が住むという。どのような魔物か、わしがこの目で見てこよう」
と、山奥にむかいました。
月明かりをたよりに登っていきましたが、何もおこりません。
そしてそのまま、山の頂(いただき)に着きました。
お坊さんは岩に腰をおろして、にぎりめしを食べたり、たばこを一服したりしながら、
「もう、現れてもよさそうなものだが」
と、魔物が現れるのをを待ち続けました。
けれど、いくら待っても、魔物は現れそうにありません。
「さては、わしに恐れをなしたな。魔物とは名ばかりの意気地なしめ」
坊さんは腰の刀を抜くと、
「せめて今夜は、ここに登ったという印を残していこう」
と、かたわらの木のみきに名前を刻みつけて、山を降り始めました。
そのときです。
ゴォーッ!
と、ものすごい風が吹いてきて、そしてその雲の上から、
「ぐわはははは。意気地なしとは、よくも馬鹿にしてくれたな。今夜のところは大目に見てやるが、このままで終わるとは思うなよ」
と、しわがれた年寄りの声が、響いてきました。
さすがの坊さんも、これにはびっくりしましたが、魔物は雲からおりては来ませんでした。
寺へ戻った坊さんは、それから無事に過ごしましたが、ある晩、不思議な夢を見ました。
仙人のような身なりの年寄りの小人が、二人の家来の小人と雲にのって、まくらもとにやってきたのです。
「われは、後ろの山の魔物。お前に馬鹿にされた仕返しにきた。覚悟いたせ」
年寄りの小人がいうと、くわを手にした家来が、一人は坊さんの右の耳の穴へ、一人は左の耳の穴へ入り込んでいきました。
そして、耳の奥から白いあぶらの固まりのような物を掘り出してきたのです。
「う、うーん・・・」
坊さんは金縛りにあって、全く動けません。
この様な事が次の晩も、その次の晩もと、毎晩のように繰り返されたのです。
小人たちが坊さんの耳の穴から取り出した物は、魂だったのでしょうか。
坊さんは日ごとにやつれていき、まもなく、死んでしまったそうです。
おしまい