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2013年 1月4日の新作昔話

看板の牛

看板の牛
福井県の民話

 むかしむかし、福井の京町(→福井県越前市京町)という所に不思議な牛が毎夜現われては、町中の八百屋(やおや)という八百屋を荒らしまわっていました。

「あの牛を何とかしないと、店が潰れてしまうぞ」
 困った八百屋たちが力を合わせて牛を退治しようとしましたが、牛はどこからともなく現れて、八百屋たちが牛を捕まえ様とすると「スーッ」と煙の様に消えてしまうのです。
「おっ、お化けだ!」
「化け物牛だ!」
 この化け物牛の噂は町中に広まり、町の人たちは怖がって昼間も出来るだけ外を出歩かなくなりました。

 そんなある日の事です。
 化け物牛の噂を耳にした隣村の牛飼いが、牛の正体を確かめようと京町へやってきました。
「牛の事なら任せておけ。おらが必ず退治してやる!」
 牛飼いは寝ずの番を何日も続けて、やっと化け物牛が八百屋を荒らしている所を見つけたのです。
 店を荒らされている八百屋の人たちは、牛が怖くて家の外に出ようとはしませんでした。
「あいつだな! 捕まえ様とすれば消えてしまうそうだから、どこへ帰るかつきとめてやろう」

 八百屋の野菜をさんざん食い荒らした牛は、やがて満足したようにとぼとぼと歩き出しました。
 そしてしばらく歩いた牛は薬屋の前で立ち止まると、すーっと煙の様に消えてしまったのです。
「しまった! どこへ行った!? この辺に奴の住処があるはず・・・。おおっ、あれだ!」
 牛飼いがふと見上げると、薬屋の屋根に取り付けられた《肝牛丸(かんぎゅうがん)》という薬の看板に、あの化け物牛そっくりの牛が描かれていたのです。
「あいつだ! 間違いない!」

 次の朝、牛飼いは薬屋に行くと昨日の出来事を話しました。
「そんなバカな。看板の牛が抜け出すなんて」
 薬屋はそう言いつつも、看板の牛を見て首をひねりました。
 看板の牛のお腹が、以前よりも大きい様な気がしたのです。
「まさかとは思うが・・・」
 薬屋が看板の牛を下ろしてみると、何と牛の口元に八百屋で食い荒らした野菜のくずが付いているではありませんか。
「本当だ! あんたの言う様に、看板の牛が抜け出したに違いない!」

 薬屋の話によると、この看板の牛は有名な名工が彫った作品だそうです。
 むかしから名工が彫った作品には、魂が宿ると言われています。
 話を聞いた牛飼いが、薬屋に言いました。
「気の毒だが、この看板を壊すしかねえな。何なら、おらが壊してやろうか?」
「とんでもない! この看板には、大金がかかっているんだ。壊さずに何とかしてくれ」
「何とかねえ。・・・では」
 牛飼いは看板を見上げる位置からは見えない角度で看板の牛の目玉をくり抜くと、前足に深い傷をつけました。
「これでもう、悪さをする事はないだろう」

 牛飼いの言葉通り、それからは町に化け物牛が現れ出る事はなかったそうです。
 ただ、悲しそうな牛の鳴き声が町に響く事はありましたが。

おしまい

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