2月15日の世界の昔話
魔法のボウシ
デンマークの昔話 → 国情報
むかしむかし、まずしいヒツジ飼いの若者が、丘の上からボンヤリと村をながめていました。
「おやっ、あれはなんだろう?」
下の大きな農家に、つぎからつぎへと人がはいっていきます。
みんな、とびきりおめかししています。
「わかった。結婚式があるんだな。おいらも見にいきたいなあ」
しばらくすると農家から、
「チリリン、チリリン、チリリン」
と、楽しそうな鐘(かね)の音が聞こえてきました。
ごちそうができたという合図です。
とたんに、地面の底から声がわきあがりました。
「ボウシはどこだ? ボウシはどこだ?」
(いったい、なんのことだ?)
ヒツジ飼いは、ためしにどなってみました。
「おーい、おいらのボウシもあるかい?」
すると、だれかが答えました。
「あるよ。おいらのとっつあんのをかぶりなよ」
声といっしょに、おんぼろボウシが目の前に飛び出しました。
ヒツジ飼いが、こわごわかぶってみると、目の前に小人がウジャウジャと現れました。
♪ほうい ほうい ごちそうだ
小人たちは歌いながら、農家に向かってかけだしました。
ヒツジ飼いも、そのあとを追いかけました。
途中で何人も知り合いに出会ったので、ヒツジ飼いはていねいにあいさつをしました。
「こんにちは、いい天気ですね」
ところが声をかけられた人は、目を丸くしてキョロキョロとあたりを見回すばかりです。
「変だなあ。おいらが見えないのかな?」
首をひねっているうちに、ヒツジ飼いは気がつきました。
「そうか。こいつは魔法のボウシだ。かぶると姿が見えなくなるんだ。いいぞ、いいぞ。これで結婚式にもぐりこめる」
ヒツジ飼いはうれしくなって、スキップしながら農家にはいっていきました。
テーブルには、ごちそうがいっぱいです。
ところがお客さんが、さあ食べようと手をのばすと、お皿はからっぽです。
「おかしいな? さっきまで、たしかにあったのに」
「ああっ、フォークからソーセージが消えた!」
お客は大騒ぎです。
じつは、ごちそうは全部、小人たちが横取りしているのです。
ヒツジ飼いも、たらふく食べました。
「そうだ。お母さんにも持っていってやろう」
ヒツジ飼いは、ポケットに食べ物やワインのビンをつめこんで家に帰りました。
お母さんも大喜びです。
「ああ、おいしかった。でもどうせなら、あしたの分もあればもっといいのに」
ヒツジ飼いはなるほどと思い、農家と家をせっせと行き来して、たくさんのごちそうを運びました。
お日さまが沈むころ、大広間でダンスがはじまりました。
みんな、楽しそうにおどっています。
「おいらも、おどりたいなあ」
ヒツジ飼いが前に出て見ていると、そこヘ花嫁と花むこがやってきました。
クルクルと花嫁が回るたびに、スカートのすそがフワリと広がります。
そしてすそが、ヒツジ飼いのボウシに当たり、ボウシが頭から落ちました。
すると突然、ヒツジ飼いが姿を現したので、まわりの人はビックリ。
「わっ。おまえ、どこからきたんだ!」
「食べ物をポケットに入れているぞ! さては、食べ物ドロボウはお前だな! それ、やっつけろ!」
みんなはヒツジ飼いを取り巻くと、ポカポカとなぐりつけました。
「助けてえー! ごめんなさーい!」
ヒツジ飼いはポケットの食べ物をほうり出して、命からがら逃げだしました。
そしてそのとき魔法のボウシをなくしてしまい、ヒツジ飼いがどんなにさがしても、二度と見つからなかったそうです。
おしまい
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