3月17日の世界の昔話
パンドラの箱
ギリシアの昔話 → 国情報
むかしむかし、ギリシアの神ゼウスは、巨人のプロメテウスをよんでこういいつけました。
「ねんどで人間をつくれ。われわれと同じ姿につくるのだぞ。わしが息をふきこんで、命を与えてやる」
プロメテウスが、いいつけどおりに人間をこしらえますと、ゼウスはそれに命をふきこんで、
「では、人間に生きでいく知恵をさずけてやれ」
と、命令しました。
「ただし、火だけはやってはいかん。火を使うことを教えると、われわれの手におえなくなるからな」
こうして人間は生まれましたが、ほかの動物のように身を守る毛皮も強い力もなく、寒さにふるえながらビクビクと生きていました。
親切なプロメテウスは、そんな人間をあわれに思って、家や道具をつくること、穀物(こくもつ)や家畜(かちく)を育てること、言葉や文字を使うことなどを教えました。
しかし、火がなくては、物を焼くことも煮ることもできません。
寒さからも、身を守れないのです。
そこでプロメテウスは、ゼウスのいいつけにそむいて、人間に火を与えることを決心しました。
そこで弟のエピメテウスをよぶと、こういいました。
「おれは人間たちをとても愛しているので、いちばん最後のおくり物として、人間に火を与えてやる。しかしそれがゼウスの怒りにふれ、おれはほろぼされるだろう。だが、おまえはおれのかわりに人間を見守ってやってくれ。おまえは考えがたりないところがあるか、けっしてゼウスにだまされるなよ」
プロメテウスはいい残して、太陽から火をぬすみ出しますと、人間に火の使い方を教えたので、おこったゼウスに山につながれ、ワシに食いちらされてしまいました。
まもなくゼウスは、職人の神へパイストスに命じて、この世で一番美しい女神パンドラをつくらせ、エピメテウスのところへ連れていかせました。
エピメテウスは、パンドラのあまりの美しさに心をうばわれますと、自分の妻にしてしまったのでした。
エピメテウスの家には、プロメテウスが残していった箱が一つありました。
黄金の箱の中には、病気、盗み、ねたみ、憎しみ、悪だくみなど、この世のあらゆる悪がはいっていましたが、プロメテウスは、それらが人間の世の中にはびこらないよう、箱の中にとじこめておいたのです。
プロメテウスはエピメテウスに、
「この箱だけは、けっしてあけてはならない」
と、いいおいていたのですが、パンドラはこの美しい箱を見るなり、中にはきっとすばらしい宝物がはいっているにちがいないと思いました。
そこで夫に箱をあけるようたのみましたが、エピメテウスは首をたてにふりません。
するとパンドラは、
「あなたが箱を開けてくださらなければ、わたしは死んでしまいます」
と、いいはじめたのです。
エピメテウスはしかたなく、兄との約束を破って箱をあけてしまいました。
そのとたん、箱の中からは病気やにくしみ、ぬすみやいかり、うそやうたがいなどのあらゆる悪が、人間の世界に飛びちったのです。
エピメテウスがあわててふたをしめますと、中からよわよわしい声がしました。
「わたしも、外へ出してください・・・」
「おまえは、だれなの?」
パンドラがたずねますと、
「わたしは、希望です」
中から、声が返ってきました。
考え深いプロメテウスが、そっと箱にしのびこませておいたのです。
こうして人間たちには、どんなひどいめにあっても、希望だけが残されるようになったのです。
おしまい
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