7月5日の世界の昔話
吸血鬼
ロシアの昔話 → 国情報
むかしむかし、ロシアのある村に、バニアという男がすんでいました。
バニアはナベやカマを売ったり、こわれたものをなおす仕事をしていました。
ある晩、仕事で帰るのがとてもおそくなってしまいました。
「もう、そとはまっ暗だ。今夜はあそこにとまるとしよう」
と、いって、バニアは古ぼけた教会のまえにウマをとめました。
教会にはだれもすんでおらず、まわりはしずまりかえった墓場(はかば)でした。
「きみがわるいな。まあいい、ねるとしよう」
バニアはねごこちのよさそうな場所をさがすと、グーグーとねむってしまいました。
今夜は星空のきれいな日で、空にはまるい月がかかっています。
ボーン、ボーン。
教会の鐘(かね)が、十二時をうちました。
その時です。
墓場の地面がグラグラとゆれ出しました。
バニアはビックリしてとびおきると、あわてて近くの木のかげにかくれました。
すると、ゆれていた地面がバックリとひらき、中から白い服をきた、おそろしい顔の魔物が出てきたではありませんか。
頭には棺(かん)おけのふたをのせ、目は青くひかり、口にはするどいキバがあります。
この魔物は、人間の血を吸って殺してしまう、吸血鬼(きゅうけつき)にちがいありません。
月の明るい晩に墓場からあらわれて、人間の血をもとめてさまよい歩くのです。
バニアは木のかげで、ブルブルとふるえていました。
吸血鬼は棺おけのふたを教会のかベにたてかけると、人間の血をもとめて村のほうへいってしまいました。
「このままでは、村の人たちが殺されてしまう」
バニアは、村の人たちをすくう方法を考えました。
「そうだ! たったひとつ方法があるぞ!」
バニアは、小さいころおばあさんから聞いたはなしを思い出しました。
《吸血鬼は太陽の光に弱く、明け方までに棺おけに入って、ふたをしっかりしめないと死んでしまう》
さっそくバニアは、教会のかべにたてかけてあった棺おけのふたをかかえると、木のかげにかくれて吸血鬼が帰ってくるのをまちました。
夜明け近くになると、吸血鬼が満足そうな顔で帰ってきました。
ところが、教会のかべを見てビックリ。
「ややっ、ふたがない! あれがなくては、おれは死んでしまう!」
吸血鬼は、ひっしになって棺おけのふたをさがします。
「どこだ、どこだ、どこだ、どこなんだー!」
そのあわてたようすがおかしくて、バニアはクスッとわらってしまいました。
それに気づいた吸血鬼は、こわい顔でバニアの方にふり向きました。
「さてはおまえだな、棺おけのふたをぬすんだのは! すぐかえさないと、おまえの血をぜんぶすってしまうぞ!」
でも、バニアも負けてはいません。
「ふん、やれるものならやってみろ。この棺おけのふたをバラバラにしてやるぞ!」
と、いって、バニアは棺おけのふたに鉄のナベをふりかざしました。
「ああ、やめてくれ、やめてくれ!」
吸血鬼はなさけない声をあげました。
「じゃあ、今日はだれを殺してきたのかいえ! それから、その人間を生きかえらせる方法もいえ!」
吸血鬼は、かぼそい声でこたえました。
「村のグレゴリというじいさんだ。生き返らせるには、おれの服の左がわをきりとって、死人の部屋でもやせばいい。そのけむりが死人を生き返らせるのだ」
そこでバニアは、棺おけのふたを返してやりました。
吸血鬼はふたを頭にのせて、急いで墓にとびこみました。
ちょうどそのとき、ニワトリがコケコッコーとなきました。
夜が明けたのです。
「ギャアーー! ひと足おそかったか!」
朝日をあびた吸血鬼は、頭に棺おけのふたをのせたまま、干物(ひもの)のようにひからびてしまいました。
バニアは吸血鬼の服の左がわをきりとると、村へ急ぎました。
そしてグレゴリじいさんの家を見つけると、吸血鬼のいったとおりの方法で、グレゴリじいさんを生き返らせてやりました。
それから村人たちを案内して、ひからびた吸血鬼を見せました。
バニアは、とねりこ(→モクセイ科の落葉小高木)の木の枝をとがらすと、おどろいている村人のまえで、グサリと吸血鬼のむねにつきさしました。
「さあ、これでこいつは、二度と生き返ることはできません」
吸血鬼をやっつけたバニアに、村人たちは何度も何度もお礼をいいました。
おしまい
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