8月3日の世界の昔話
ホレのおばさん
グリム童話 →詳細
むかしむかし、あるところに、母親と二人の娘がいました。
お姉さんは美しくて気だてもよく、とても働き者でしたが実の娘ではありません。
妹はきりょうが悪く、しかもなまけ者でしたが、母親の本当の娘だったので、母親はこちらの娘ばかり可愛がっていました。
そしてお姉さんは母親の命令で、いつも井戸(いど)のわきで指に血をにじませながら糸をつむがされていました。
ある日の事、お姉さんが糸巻きについた血を洗おうと井戸に身をのり出したとたん、糸巻きを水の中に落としてしまったのです。
「どうしましょう」
お姉さんがこの事を母親に話しますと、母親はひどく怒って、
「このバカ娘! 糸巻きをひろうまで、家には入れないよ!」
と、お姉さんを家から追い出したのです。
お姉さんは仕方なく井戸に戻ると、思い切って中へ飛びこみました。
気がつくとお姉さんは、色とりどりの花が咲きみだれる広い草原にいました。
「まあ、井戸の中に、こんなにすてきなところがあったなんて。・・・ああ、それよりも糸巻きを」
お姉さんが糸巻きを探して歩き出すと、かまどの中から声がしました。
「早く、引っぱり出してくれよ!」
見るとかまどの中にひしめき合ったパンたちがさけんでいるので、お姉さんは一つ残らずパンを外に出してやりました。
お姉さんがまた歩き出すと、今度はリンゴの木が言いました。
「木をゆすって、リンゴの実を落としてくれよ!」
お姉さんはリンゴの木をゆさぶって、たわわな実を一個残らず落としてやりました。
さらに歩いていくと、小さな家がありました。
家の中から、ネズミのような長い前歯をしたおばさんが現れて、こう言うのです。
「わたしは、ホレのおばさんだよ。家で働いてくれたら、お前を幸せにしてやるよ。なあに、働くといっても、わたしのベッドをなおす時に、ふとんをよく振って、羽毛がいっぱい飛び散るようにするだけでいいのさ。そうすると、雪が人間の世界に降るんだよ」
行く当てのないお姉さんは、ホレのおばさんに家で働くことにしました。
イラスト Ellie 「羽根布団の羽から生まれた雪を見上げている」
何日も何日も一生懸命働いたお姉さんは、ある日、おばさんに言いました。
「あの、そろそろ家に帰りたいの」
「ほう、あのイジワルな母親の家にかい? まあ、帰りたいのなら帰るがいいさ。今まで文句も言わずに、よく働いてくれたね」
おばさんはお姉さんを大きな門の下へ連れて行くと、とびらを開けました。
すると上からおびただしい金貨が降りそそいで、お姉さんの体にペタペタとくっついたのです。
それからおばさんは、なくなった糸巻きをお姉さんに手渡すと、井戸の上の世界に帰してくれました。
さて、家に帰ってきたお姉さんを見た母親は、お姉さんが体中に金貨をつけているのを見てびっくり。
「お前、その金貨はどうしたんだい?」
お姉さんから今までの話を聞いた母親は、自分の子の妹にもいい思いをさせてやろうと、妹を井戸の中へ入らせました。
妹もお姉さんと同じようにきれいな草原へ出ましたが、かまどの中の声にも知らん顔。
リンゴの木の言葉にも、知らん顔です。
そしてホレのおばさんの家にいきました。
ホレのおばさんの家で働くことになりましたが、この妹は働くのがきらいなので、ちっとも働こうとしません。
それから数日後、妹はホレのおばさんに言いました。
「あたし、そろそろ帰る。だから早く、金貨をちょうだい」
すると、妹の態度に腹を立てたホレのおばさんは、妹を門のところへ連れて行くと、とびらを開けました。
妹は金貨が降ってくると心待ちにしていましたが、降ってきたのはくさくてまっ黒なドロドロの松ヤニでした。
「お前にお似合いのごほうびだよ。はやく帰りな!」
ホレのおばさんに送り帰された妹は、死ぬまでドロドロのヤニが取れなかったそうです。
おしまい
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