8月15日の世界の昔話
魔法の玉
ドイツの昔話 → 国情報
むかしむかし、司祭(しさい)さまからほんの少しのお給料をもらって、その日をやっとくらしている男がいました。
男は奥さんと子供を食べさせなくてはならないので、毎日毎日、一生懸命(いっしょうけんめい)はたらきました。
でも、何年たっても貧乏なままです。
ある日男は、貯金(ちょきん)をはたいてとなりの家の人から子ヒツジを一匹買いました。
そして子ヒツジを市場に売りに行き、そのお金でメンドリを三羽買うことにしたのです。
メンドリなら玉子を産んでくれるので、何とか奥さんと子供に、ひもじい思いをさせないですむだろうと考えたのです。
男が子ヒツジを連れて森の道にさしかかると、木のかげから妖精(ようせい)が出て来ました。
妖精は男を見あげて、こう言いました。
「今日、市場へ行っても子ヒツジは売れないよ。もし俺(おれ)に子ヒツジをくれたら、玉を一つやるけど」
「玉なんか、いらな・・・」
と、男は言いかけましたが、妖精のくれる玉なら、とってもめずらしい玉にちがいありません。
「いいよ、子ヒツジと玉をとりかえよう」
男がそう答えると、妖精はどこかへ走って行って、木の玉を持って来ました。
「この玉は、『玉よ、ボウシをとっておじぎしろ』って言えば、それでいいんだ。ああ、それと、戸締りをきちんとしてから言うんだよ」
「よし、わかった」
男は子ヒツジを渡し、玉をもらって家に帰りました。
家に帰ると、さっそくまどもドアもカギをかけてから、
「玉よ、ボウシをとっておじぎしろ」
と、言いました。
すると玉は急にゴロゴロところがりだし、パカッと二つにわれて、中からたくさんの妖精たちが出て来ました。
妖精たちはテーブルにりっぱな食器やキラキラ光るナイフとフォークを次々とならべると、ガチョウの丸焼きや、パンにワインにフルーツなど、ごちそうをいっぱい用意したのです。
こんなごちそうを見たのは、生まれて初めてです。
男も奥さんも子供たちも、パクパクムシャムシャと、食事の前のおいのりをするのも忘れて食べました。
ごちそうをきれいに食べてしまうと、妖精たちは後片付けをして、また玉の中にもどってしまいました。
この日から男の家族は、毎日ごちそうを食べることが出来ました。
さて、そのことを知った司祭さまは、男にこういいました。
「その玉は、きっと悪魔(あくま)の玉だ。お前の給料をよくしてあげるから、悪魔の玉をわたしにあずけなさい」
男は言われたとおりに玉を渡しましたが、司祭さまは男のお給料をあげてはくれません。
それどころか、悪魔の玉と言ったくせに、毎晩お客をよんで、魔法の玉のごちそうを食べさせているのです。
くらしに困ってしまった男は、今度はオスウシを二頭つれて森へ出かけて行きました。
夕方近くなって妖精が出てきたので、男は妖精に言いました。
「オスウシを二頭やるから、前の玉よりもいい玉と交換しろ!」
男は司祭さまのことで怒っていたので、つい、らんぼうな言葉で言ってしまったのです。
妖精は男とオスウシをジロジロ見て、フン! と鼻で笑いました。
そして、前のより大きな玉を男に渡すと、二頭のオスウシを連れて、森の奥へ消えてしまいました。
男は大きな玉を持って家に帰ると、さっそく戸じまりをしてやってみました。
「玉よ、ボウシをとっておじぎしろ」
大きな玉はゴロゴロところがり、パカッと二つにわれました。
でも出てきたのは、こんぼうを持った大きな巨人が二人です。
巨人はこんぼうをふり上げると、男の家族をポカポカとなぐりました。
「わあ、痛い、痛い。やめてくれえ!」
男も家族も、あまりの痛さに気絶してしまいました。
しばらくして気がつくと、巨人は玉の中にもどっていたので、男は司祭さまの家へ大きな玉を持って行きました。
「司祭さま、こんどは前のよりも大きな玉でございます」
男が言うと、司祭さまは喜んで部屋にまねきいれました。
「ちょうどお客さまが集まったところだ。すぐ見せなさい」
男はすまして、
「玉よ、ボウシをとっておじぎしろ」
と、言いました。
するとたちまち巨人が出て来て、司祭さまもお客もポカポカにやられたのでたまりません。
「これこれ! なんとかしなさい!」
すると男は、きっぱりといいました。
「いいえ。前の玉を返してくださるまではやめません!」
「わかった、わかった! たなにあるから持って行きなさい!」
こうして妖精の玉は、男のもとへもどりました。
男は喜んで、友だちや親せきをまねいてごちそうをすることにしました。
まどを閉め、ドアを閉めて、さっそく玉に言いました。
「玉よ、ボウシをとっておじぎしろ」
玉はゴロゴロころがり出しました。
そのとき、おくれて来た友だちがドアをあけたのです。
すると玉はゴロゴロと、開いたドアから外へいきおいよくころがって行きました。
男も家族も友だちも親せきも、あわてて玉を追いかけましたが、玉はパカッとわれると、お皿やごちそうを持った妖精たちが飛び出して、そのままどこかへ逃げてしまいました。
そして妖精たちは、二度と帰ってくることはありませんでした。
おしまい
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