10月2日の世界の昔話
妖精の油ツボ
イギリスの昔話 → 国情報
むかしむかしのある夜、一人の男の子が留守番(るすばん)をしていました。
外は粉雪がまう寒い夜でしたが、部屋の中は暖炉(だんろ)の火が赤々と燃え、とてもあたたかでした。
男の子は絵をかいたり、小さな木をつんだりして遊んでいました。
すると、どこもしまっているはずなのに、ピューッと冷たい風がはいって来て、部屋いっばいに霧(きり)が広がりました。
男の子は少し怖くなって、あかるい暖炉の火のそばへ行きましたが、ふと、うしろをふりかえってビックリ。
霧の中には、ツボを持った男の人が見えたのです。
となりには、赤ちゃんをだっこしている女の人もいます。
赤ちゃんは、大きな声でウギャー、ウギャーと泣いています。
男の人はお父さんで、女の人はお母さんなのでしょう。
女の人は、赤ちゃんをあやしながら言いました。
「おお、よしよし。今お父さんが、ツボの薬をぬってくれるからね。そうしたらおまえの目は、いっぺんによくなるよ」
お父さんは、暖炉の火でツボをあたためました。
火の中に手を入れても平気な様子からして、多分、男の人も女の人も、それに赤ちゃんも妖精(ようせい)なのでしょう。
ツボがあたたまると、お父さんはツボの中に手を入れて、ドロリとした油を赤ちゃんの目に一てきたらしました。
すると、泣いていた赤ちゃんの泣き声がピタリとやみ、今度はうれしそうに笑い出したのです。
「ああ、よかったね。お目々の痛いのなおったね」
妖精のお父さんとお母さんは、ニッコリほほえみました。
そのとたん、妖精たちは消え、霧もはれ、何もなかったようにもとの部屋にもどったのです。
男の子は目をパチクリさせて、目をこすりました。
「もしかしたら、今のは夢だったのかな。・・・あっ、これは」
男の子の目の前に、さっき妖精の赤ちゃんの目をなおしたツボがおいてありました。
男の子は、そのツボを大切にかくしておきました。
やがて男の子も若者になり、町ではたらくようになりました。
町の人たちとも、なかよくなりました。
あるとき、友だちがけがをしたので、若者はためしに、かくしておいた妖精のツボから油を一てきたらしてみました。
すると、たちまちそのけがはなおってしまいました。
友だちはおどろき、そのことを町中の人たちに話しました。
それからというもの、町の人たちはけがをしたり病気になったときには、若者のところへ来るようになりました。
若者は結婚して、くらしがまずしく大変になっても、
「これは、妖精からもらった薬だから」
と、村の人たちからお金をとることはしませんでした。
そうして、いつでも奥さんとかわりばんこに、具合の悪い人たちをなおしてあげました。
ありがたいことに、妖精の油は毎日毎日使っているのに、ちっともへりません。
若者と奥さんは、村の人たちからとても感謝され、だいじにされていました。
けれどもある日、若者の奥さんが事故で、急に亡くなってしまったのです。
そして、新しい奥さんが来ることになりました。
新しい奥さんは、
「こんなに素晴らしい薬を、ただでぬってあげるなんて!」
と、怒りました。
「もしお金をとれば、すぐにお金持ちになって、二人とも働かずにすむのに。これからは、お金をもらいましょう!」
新しい奥さんがあまりにもしつこく言うので、ついに若者はお金をとることにしたのです。
村の人たちは、しかないので、一てきもらうたびにお金をはらいました。
そして若者は、確かにお金持ちになりました。
けれども、お金をとるようになってからは、油がへっていくようになったのです。
そうしてとうとう、妖精の油ツボの中は空っぽになり、二度とふえることはありませんでした。
おしまい
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