11月10日の世界の昔話
タイコじいさん
中国の昔話 → 国情報
むかしむかし、ある山のふもとに、白いひげをはやしたおじいさんが住んでいました。
おじいさんは小さな家でぞうりを作って、たった一人でくらしていました。
おじいさんはひまがあれば、タイコを「ドンドンツク、ドンツクドン」とたたき、
「わしの歌をきいとくれ。わしの話をきいとくれ」
と、村じゅうをまわってあるきます。
すると、子どもたちがあつまってきて、
「タイコじいさん。歌をうたっとくれ。むかし話をしておくれ」
「それでは、とっておきの歌とお話しをするかのう」
と、とくいそうに、白いあごひげをなでるのでした。
おじいさんがこの村にいるおかげで、みんなはとてもゆかいにくらすことができました。
さて、村のそばにひとすじの川が流れていました。
川は流れがはげしく、なかなか渡ることができません。
それに春になると、雪どけの水があふれて道も畑も水びたしになるので、人びとはとてもこまっていました。
ある日、おじいさんが川岸をあるいていると、
「たすけてー!」
と、いう声がします。
見ると女の人と子どもが、川の中でおぼれているではありませんか。
「まっていろ! いまいくぞ!」
おじいさんは着物をきたまま、ザブン! と川へとびこみました。
しかし女の人と子どもは、川の流れに流されていってしまいました。
おじいさんは岸にはいあがると、川にむかってさけびました。
「おまえはなんというひどい川だ! これまでにも、たくさんの人の命をのみこんできたが、もうゆるさん! わしはきっと、おまえの上に石の橋をかけてやる!」
けれどおじいさんには、橋をつくるお金も力もありません。
おじいさんは毎日、ゴウゴウと音をたてて流れる川をながめては、
「なにか、いいくふうがないものか?」
と、考えるのでした。
ある夜のこと、おじいさんは夢をみました。
りっぱにできあがった石の橋の上で、村人たちがおじいさんのタイコにあわせて、楽しそうにおどっているのです。
夢のなかでおじいさんは、とてもしあわせでした。
「もうこれで、どんなに川のやつがあばれても安心だ」
おじいさんが大声でみんなにいったとき、夢からさめたのです。
おじいさんはベッドの上におきあがって、なにか考えていましたが、
「そうだ!」
と、ポンとひざをたたいて、庭へ出ていきました。
庭のすみに、キンモクセイの木があります。
おじいさんはキンモクセイの木にタイコをぶらさげ、その下に木の箱をおきました。
つぎの日の朝、おじいさんは村の人たちをあつめていいました。
「これから、わしのむかし話を聞きたいときは、この木の箱にいくらでもいいからお金をいれて、タイコをたたいてわしをよんでくれないか」
「えー。もう、ただでお話をしてくれないの?」
子どもたちが、つまらなそうにいいました。
「ああ。橋をつくる石を買うためのお金ができるまではな」
村の人たちは、やっとおじいさんがなにを考えているのかわかりました。
「どうかな。わしのたのみを聞いてくれるかな?」
おじいさんがそういうと、みんながいいました。
「だいさんせい!」
そのつぎの日から、村の人たちは仕事をおわると、キンモクセイの木にぶらさがっているタイコを、ドンツクドンドンとたたいては、おじいさんのむかし話を聞くようになりました。
タイコがならない日は、一日もありません。
木の箱の中のお金も、すこしずつ、ふえていきました。
おじいさんの話はたいへんおもしろく、美しい話も、悲しい話も、ゆかいな話も、ぼうけん物語もありました。
おじいさんがキンモクセイの木の下にすわって話しをはじめると、おとなや子どもだけでなく、木の枝にとまっている小鳥たちや空の星たちも、ジッと耳をかたむけるのでした。
こうしていつのまにか、十年という月日がすぎていきました。
ある日、おじいさんがキンモクセイの木の下の箱をあけてみると、かぞえきれないほどのお金が出てきました。
「これでよし」
おじいさんは、さっそくそのお金で石を買い、橋をこしらえはじめました。
石をはこび、ドロをこね、汗ビッショリではたらくおじいさん。
村の人びとも、おうえんにかけつけました。
「ぼくらも、てつだうよ」
子どもたちも、やってきました。
小鳥たちも、空がまっくらになるほど仲間をつれて、かわいいくちばしで小石をつまんではこびます。
一人一人の力は小さくても、みんなが力を出しあえば、どんなこともできるのです。
仕事につかれると、おじいさんはタイコをたたいて歌をうたいます。
♪モクセイの花がさくよ。
♪タイコがドンとなれば、みんなあつまる。
♪おとなも子どもも。
♪モクセイの花がにおうよ。
♪みんなあつまれば、はじまるよ、じいさんの話。
♪モクセイの花がちっても、
♪みんなあつまる。
♪みんなあつまれば、橋ができるよ。
みんなはおじいさんの歌にはげまされて、元気いっぱい石をきり、石をはこび、石をつみ、ドロをこねて橋づくり。
すこしずつ、すこしずつ、橋ができていきました。
そしてつぎの年の春には、とうとうりっぱな橋ができあがったのです。
おじいさんが夢にまでみた橋!
この橋があれば、どんなに川があふれても、もう人びとが苦しむようなことはないでしょう。
「よかった。よかった!」
人びとは白くかがやく橋の上で、肩をたたきあってよろこびました。
ところがそれからまもなく、おじいさんがおもい病気にかかってねこんでしまったのです。
橋をこしらえているとき、つみあげた石がくずれてきて、おじいさんの足をきずつけました。
みんなは、おじいさんにやすむようにいったのですが、おじいさんは、
「なんだ。これっぽっちのけが」
と、がんばりつづけたのです。
そのためでしょう。
橋ができたころには、おじいさんの足はひどくはれあがり、あるくこともできなくなりました。
これでは、だいすきなタイコもたたけません。
おじいさんのタイコがならない村は、ひっそりと静まりかえり、人も草も小鳥たちも、ためいきをつくばかりです。
「もういちどタイコをたたき、村の人たちにお話をしてあげたい」
おじいさんがそう思ったとき、たくさんの小鳥たちがまどからとびこんできました。
気がついてみると、おじいさんはタイコの上にすわって、空にまいあがっています。
小鳥たちがおじいさんをつばさにのせて、空たかくとんでいるのです。
そしてそのまま、おじいさんのすがたは、月の光のなかにすいこまれていきました。
それからは、月のあかるい夜になると、あのなつかしいタイコの音がきこえてくるようになりました。
♪ドンツクドン。
♪ドンツクドン。
すると、子どもたちが月を見あげてさけびます。
「ほら。おじいさんがお月さまのなかで、タイコをたたいているよ」
おしまい
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