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福娘童話集 > 日本昔話 > その他の日本昔話 >おかみすり

第 26話

おかみすり

おかみすり

※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先

制作: フリーアナウンサーまい【元TBS番組キャスター】

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投稿者 ナレーター熊崎友香のぐっすりおやすみ朗読

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投稿者 ごえもん

♪音声配信(html5)
音声 ハッサン ハッサンの窓

 むかしむかし、ある山寺に、とても馬鹿正直な小僧さんが、和尚(おしょう)さんと二人で住んでいました。
 ある日の事、小僧さんが掃除をしていると和尚さんが帰ってきました。
「和尚さま、お帰りなさい」
「おほん! 掃除はすみからすみまでていねいに、時間をかけてな。くれぐれも、すぐに終わってはいかんぞ」
 和尚さんはそう言うと、自分の部屋へ向かいます。
 その時、和尚さんは財布を落としましたが、気がつきませんでした。

 この頃のお坊さんは、魚を食べてはいけない決まりになっていました。
 ところがこの和尚さん、川魚のアユが大好物です。
 だから今日も一人でこっそりアユを食べようと、小僧さんにああ言ったのでした。
「まったく、アユという魚は、姿といい、かおりといい、味といい、天下一品じゃ」
 和尚さんは、ふところから取り出したアユを見てニンマリです。
 その時、しょうじが開いて小僧さんが顔を出しました。
「和尚さま、財布を・・・。あれっ? 和尚さまは、魚を食べているのですか?」
「いやその、こ、これは魚じゃないぞ」
「では、何ですか?」
「おほん、これはな、おかみすりというもんじゃ」
「おかみすりって、あの頭をそるときのでござりますか?」
「そうじゃ、わしはこのおかみすりが、大好物での」
 和尚さんはそう言い訳をすると、おいしそうにアユを食べました。

 さて次の日。
 小憎さんは、法事(ほうじ)に出かける和尚さんのお供をすることになりました。
「そうだ! いただいたかさを持っていって、大事にしているところを見せんとな」
 雨も降っていないのに、和尚さんは小僧さんにかさを持たせました。
「では行くぞ」
「は〜い」
 和尚さんの乗った馬のあとを、小僧さんはかさをかかえてついていきます。
「小僧や、川だ!」
 馬に乗った和尚さんが大きな川を渡ると、小僧さんも一生懸命に追いかけました。
 小僧さんがふと川の中を見ると、たくさんのアユが泳いでいるではありませんか。
 小僧さんは、前を行く和尚さんに大声で言いました。
「和尚さま、いつも食べておられるおかみすりが、たくさん泳いでおりますよ。和尚さま好物のおかみすりが」
 それを聞いた旅人が、おかしそうに顔を見合わせました。
 和尚さんは、あわてて言いました。
「馬鹿者! なにをねぼけておる。さあ、急ぐぞ」
「あ、はい」
 それから和尚さんは、あとをついて来る小僧さんにこう言いました。
「いいか、何があっても余計なことは言わずに、黙ってついて来い」
「はい」
 小僧さんは首をかしげましたが、黙って和尚さんのあとをついて行きました。
 しばらくすると、また川がありました。
「小僧、川に物を落とすでないぞ」
 そう言う和尚さんが、川の途中でタバコ入れを落としました。
「あっ、タバコ・・・」
 言いかけた小僧さんはあわてて口を押さえると、流れるタバコ入れを見送りました。
(あぶないあぶない。和尚さんに、何が起きても黙ってついてこいと言われたばかりだ)

 しばらくすると、馬からおりた和尚さんが言いました。
「小僧よ。ここらで、いっぷくをしよう」
 道ばたの石に腰かけた和尚さんが、タバコ入れを探しました。
「はて? タバコ入れがないぞ。お前、落ちたのに気づかなかったか?」
「はい。それが、タバコ入れは二つ目の川でポチャンと落ちて、プカプカと流れていきました」
「なんと。それならなぜ、すぐに拾わないんだ!」
「はい。拾おうと思いましたが、和尚さんに、何が起きても黙ってついてこいと言われたので」
 和尚さんは、小憎さんを怒鳴りました。
「馬鹿者! これからは、馬から落ちた物があったら、何でも拾うんだ! いいな!」
「はい」
 一休みをした二人は、また出発しました。
 法事のある家までは、まだまだ長い道のりです。
 そのうち和尚さんが乗った馬のお尻から、ポタポタ、ポタポタとフンが落ちました。
 それを見た小僧さんは和尚さんの言葉を思い出し、
「そうだ、馬から落ちた物は、何でも拾わないと」
と、持っていたかさを広げて落ちてくるフンを受け止めました。
「ほい、やっ。こらよっ。次から次へと落ちてくるぞ」
 その声に気づいて後ろを振り向いた和尚さんは、小僧さんがかさを広げて馬のフンを受け止めているのを見てびっくりです。
「馬鹿者! 大切なかさで、そんな物を拾うな! 全部川に捨ててこい!」
「でも、馬から落ちた物は、何でも拾えと和尚さまが」
「馬鹿正直にもほどがあるわ。いいから、全部捨ててこい」
「は〜い!」
 小僧さんは川の方へ走って行くと、川でかさを洗いながら首をかしげました。
「和尚さまの言うとおりにしているのに、なんでしかられるんだろう?」
 その時、きれいに洗ったかさの中に、川を泳いでいたアユが入ってきました。
 川岸で見ていた和尚さんは、そのアユが欲しくてたまりません。
「見事なアユじゃ。小僧のやつ、あのままアユを持って来いよ」
 和尚さんがそう思っているのも知らず、小僧さんは、
「きれいなおかみすりだ。けど、和尚さんは全部捨ててこいと言っていたから。・・・そうだ、全部なら、かさも捨てないと」
と、言うと、大切なかさも川に捨ててしまいました。
 それを見た和尚さんは、がっかりです。
「ああ、わしの大好物のアユばかりか、大切なかさまで捨ておるとは。とほほほ」
 かさはドンドン流れて行って、ついに見えなくなりました。

おしまい

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