福娘童話集 > 日本昔話 > その他の日本昔話 >あばれ牛 彦一のとんち話
第 100話
あばれ牛
彦一のとんち話 → 彦一について
・日本語(Japanese) ・英語(English) ・日本語(Japanese)&英語(English)
英訳翻訳者 花田れん
むかしむかし、彦一(ひこいち)と言う、とてもかしこい子どもがいました。
これは、彦一が村の庄屋さんと旅に出ていた頃のお話です。
二人が山にさしかかり、一本道を歩いていると、向こう側から、
「牛が逃げたぞ! はやく逃げてくれ!」
と、さけび声が聞こえてきました。
はっとして、行く手を見ると、確かに一匹の猛牛が、ものすごい勢いで走ってきます。
「うわっ、大変だあ!」
二人は懸命に来た道を逃げ出しましたが、怒り狂った猛牛は、角を振りながら二人の後ろに迫ってきました。
もし追いつかれたら二人は突き殺されるか、運が良くても大けがです。
やがて走っていた庄屋さんが小石につまずいて、バタリと転んでしまいました。
「うわっ、助けてくれっ!」
庄屋さんは、声をあげました。
するとそれを聞いた彦一は、何を思ったのか、くるりと牛の方へ向き直ると、いきなり地面に両手をついて逆立ちをしたのです。
すると不思議な事に、転んだ庄屋さんに襲いかかろうとした猛牛が、びっくりしたように足を止めたのです。
そこへ牛の飼い主が駆けつけてきて、やっとの事で猛牛を捕まえました。
なんとか助かった庄屋さんと飼い主は、なぜ、牛が彦一の逆立ちで止まったのか不思議でなりません。
二人が目を丸くしてそのわけを聞くと、彦一は逆立ちをして手に着いた土を払いながら、こう言いました。
「これはまじないでも、とんちでもありません。村の年寄りから聞いた事ですが、牛でも犬でも動物は、今まで見た事もない変わった物を見れば、とてもびっくりして大人しくなるのだそうです。そこで一か八か、逆立ちをしてみたのです。頭が足の間にある動物なんか、ちょっと珍しいですからねえ」
これを聞いた庄屋さんと飼い主とは、
「おそろしい知恵者だ」
と、彦一に賢さと勇気に感心しました。
今でも九州の田舎へ行けば、牛に追いかけられたときは逆立ちをすれば良いと言われているそうです。
おしまい
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