福娘童話集 > 日本昔話 > その他の日本昔話 >はなお 彦一のとんち話
第 102話
はなお
彦一のとんち話 → 彦一について
・日本語(Japanese) ・英語(English) ・日本語(Japanese)&英語(English)
英訳翻訳者 花田れん
むかしむかし、彦一(ひこいち)と言う、とてもかしこい子どもがいました。
さて、近頃は若侍たちの間に、おかしな事が流行だしました。
それは、ビロードで着物を作る事です。
ビロードというのは、やわらかい、つやのある織物で、外国から輸入された物でした。
何しろ外国から買うので、値段がとても高いうえ、あのだらりとした格好が武士らしくありません。
そこで殿さまは、武士がビロードの着物を着る事を禁じたのですが、一部の者たちは、お城にこそ着てきませんが、ほかのところでは相変わらず、ぞろりぞろりと着て歩くのです。
「さて、どうしたものか。厳しく注意しても良いが、それでは頭の固い人間だと思われてしまうし」
頭を悩ませた殿さまは、日頃から妙案を出してくれる彦一を呼んで相談しました。
「彦一よ、自分からあの格好をやめる方法はないだろうか?」
すると彦一は、しばらく考えていましたが、
「殿さま、もうそろそろ桜も咲き始めましたが、お花見は、いつおやりになりますか?」
と、たずねました。
「なんじゃ突然。花見は明後日やることになっているから、そちもぜひまいれ」
「はい、ありがとうございます。ところで殿さま、ご家来の方々には、花見の時はビロードの着物を着ても良いと申しつけ下さいませ。それからその日は、わたくしが友だちを大勢連れてまいります事も、お許し願います」
彦一の言葉に、殿さまは何か妙案を思いついたのだなと気づいて、その通りに取りはからいました。
さて、いよいよ、お花見の日となりました。
大勢の若侍たちが殿さまからお許しが出たので、大いばりで自慢のビロードのはおりやはかまを着てきました。
そして殿さまが花見をしているところへ、彦一が二十人あまりの品の悪い町人を連れて現れました。
それに気づいた家来の一人が、
「これこれ彦一、何でまた、こんな町人どもを連れてきたのだ」
と、注意をすると、殿さまが、
「いや、しかるな。ところで彦一、その方はじめ町人ども、めずらしいはなおのぞうりをはいているな」
と、言いました。
すると彦一は、にっこり笑うと、大きな声でこう言いました。
「あっ、これでございますか、これはビロードで作ったはなおでございます。近頃町人たちの間には、ビロードのはなおが流行っているのでございます」
殿さまは、彦一の考えがわかって、彦一に合わせて大きな声で言いました。
「ビロードのはなおとは、面白い。そう言えば、わしの家来の中には、町人のぞうりのはなおを着物にして喜んでおる者があるぞ。あははははは」
それを聞いたビロード姿の若侍たちは、すっかり恥をかいてしまいました。
それからは、ビロードの着物を着る若侍はいなくなったと言うことです。
おしまい
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