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第 113話
万蔵とウマ
福島県の民話 → 福井県情報
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投稿者 ナレーター熊崎友香のぐっすりおやすみ朗読
むかしむかし、小坂峠(こさかとうげ→福島県)のふもとの村に、万蔵(まんぞう)という若い男がいました。
万蔵は心のやさしい正直者で、毎日のようにウマの背に荷物を乗せて峠(とうげ)をこえていました。
ある日の事、万蔵は人にだまされて、大事なウマを取られてしまいました。
ウマを取られては、荷物を運ぶ仕事が出来ません。
「ウマはないが、仕事をしないと食っていけないしな」
仕方なく万蔵は背負えるだけの荷物を背負って、自分一人で荷物を運ぶ事にしました。
万蔵が夕暮れの峠の道をのぼっていくと、旅姿(たびすがた)の老人がしょんぼり石にすわっています。
「どうした? じいさん」
万蔵がたずねると老人は、
「実はお金を使い果たしてしまい、朝から何も食べておらんのじゃ」
と、言うのです。
「そりゃあ、お気の毒だな。・・・よし、おいらにまかせておきな」
万蔵は老人を元気づけると、知り合いの茶屋(ちゃや)へ連れて行きました。
「ここで二、三日、ゆっくり体を休めていくといい。お金は、おいらがなんとかするから心配するな。たくさん食って、はやく元気になるんだぞ」
万蔵は老人を茶屋の主人に頼むと、そのまま仕事に戻りました。
次の朝、荷物を背負った万蔵が昨日の峠に来てみると、またあの老人が石にすわっていました。
でも今日の老人は、黒毛のたくましいウマを五頭もつれています。
老人は万蔵を見つけると、にこやかに言いました。
「昨日は、どうもご親切に。お礼に、このウマをさしあげよう。町へ行って売りなされ」
「こんなに、立派なウマを。・・・あ、あなたさまは、どこのだんなさまで?」
万蔵がたずねると、老人はニッコリ笑い、
「この峠の上の、稲荷大明神(いなりだいみょうじん)の使いの者じゃ」
と、言って、そのままけむりのようにスーッと消えてしまいました。
「なんとも、不思議なことじゃ」
万蔵は老人に言われた通り、五頭のウマをひいて町へ行きました。
すると、それを見かけた殿さまの家来が、
「すばらしいウマだ。これは殿さまにふさわしい」
と、ウマを五頭とも買いあげてくれたのです。
こうして大金を手に入れた万蔵は、その大金で峠に稲荷大明神をまつるお堂(どう)をつくり、峠越えで苦しむ人たちを助けたと言うことです。
おしまい
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